天知茂さんを追って

 60年代前半生まれの自分にとってはじめてみた天知茂さんは、2時間ドラマの明智探偵役という感じで、なんだか決まりすぎている・・という印象だった。

旧作邦画を観るにつけ、「東海道四谷怪談*1伊右衛門や「憲兵銃殺」*2でクールガイのイメージをまず持ったが、「893愚連隊」*3の、新しい世代のノリについていけない古いタイプのやくざをみて親近感を抱き、続いて観た田宮二郎との「犬」シリーズ*4でくたびれた刑事「ショボクレ」役で、こんな愛嬌のある姿も演じられるんだ、と一気に好きになった。

そんな経緯で、「座頭市」のシリーズの中でも、天知さん演じる平手造酒と勝新の敵同士に雇われた立場の切ない友情が素晴らしいときいていた三隅監督の「座頭市物語」(1962)を観てみた。「座頭市」のシリーズの第一作目。

 

 最近amazonプライムで彩色したバージョンの小津作品など配信され、どういうつもりだと驚いているのだが、この映画もモノクロならではの良さがある。白と黒だけどそこに濃淡が加わりとても深みがある画面、これをカラーにしたらぺらぺらになってしまうだろうな。

天知さん扮する平手造酒、ほんとにこんなかっこいい役があろうかと思うような潔さ。兵隊を無駄死させて自分たちはのうのうと暮らす親分たちへの批判も強く描かれ、戦争への思いが籠っているのではないかと感じた。

助監督のところに国原俊明さんの名前。先日亡くなった父が大学の映画部で出会い、追悼の文集を発行していた方だ。旧い映画を観ていると時々映画部の方々のお名前を見かけるけれど、この現場で頑張っておられたのだなと特別の思いで拝見する。

 

もう一本天知さん目当てで観たのが田宮二郎がガンマニアを演じた「犬」シリーズ最終作「勝負犬」。田宮さんがとても軽い主人公鴨井役。天知さん演じるヨレヨレのトレンチコートと帽子を被った刑事(ショボクレ)とのコンビネーションをいつも楽しむのだが、今作ではラストだからか鴨井からショボクレへの思いが劇的な感じにしてあった。普段は強がりをいってる放蕩息子の真心みたいな感じで、田宮さんのそういう姿がまた魅力的。「犬」シリーズの特集記事が載っていた「For Everyman」という雑誌にも書かれていたのだが、このシリーズでは坂本スミ子演じる玉子というのがまたキュート。玉子はシリーズ内で色々な職業で出てくるキャラクターなんだけれど、「勝負犬」では歌手。60年代っぽいかわいさの衣装で登場し場を和ませていた。鴨井の「俺は警察の犬ではない」というセリフがあって、ああ、犬ってそういう意味合いのタイトルでもあったかと思う。ストーリーはわざわざ大掛かりにしてあるようなところもあり、どっちでもよい感じ。60年代のアクションものって悪の組織が・・みたいなこういう感じの多いな・・なんか劇的なんだけど大雑把みたいなつくり。

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