新釈 四谷怪談

 

四谷怪談 [VHS]

四谷怪談 [VHS]

 

木下惠介監督の四谷怪談。今までいくつか四谷怪談をみてきたけれど、これは怪談話の要素が薄く事件簿的な人間ドラマという色彩が濃かった。

田中絹代がお岩さんと妹の二役。この作品では顔は似ているが妹は下町でチャキチャキ生きていて姉は伊右衛門とじめっと暮らしているような設定。田中絹代の見せ場がこの設定で増えていると思う。

この映画では直助という、他のバージョンでは十七世中村勘三郎*1近衛十四郎*2がちょっとコミカルに演じることもある小悪人が、上原謙演じる優柔不断な伊右衛門と比べてずいぶんクールな悪人として描かれていて、滝沢修の演技が光る。悪に徹底している姿、若いときの西村雅彦もこんなの似合ってたのでは?などと思ったり。

お岩さんと一緒に犠牲になって有名な戸板返しのシーンで出てくる小平の設定ももっと重奏な因縁話で(そこの部分がほかではきいたことのない設定だったものではじめ何の話がはじまったのか?というところもあった。)佐田啓二が魅力的に演じている。髷を結っている佐田啓二わたしはあまりみたことがなかったなあ。小平の母を飯田蝶子伊右衛門の再婚相手となる家の一癖ある女中が杉村春子、その元夫が加東大介ととても豪華な配役。そして、それぞれの役に成りきっている名優たち。

この作品のお岩さんと伊右衛門の組み合わせには、実はまだ見ぬ「愛染かつら」の二人がこんな風に。。と思う部分もあり、他の作品とくらべて伊右衛門が最高に気弱で、お岩さんと伊右衛門の悲しい物語というテイストも濃厚なのであえてのキャスティングともみえる。伊右衛門がはっていた傘をクライマックスのところに持ってくるセンスもうなった。

木下惠介監督の新しい解釈をなかなか堪能できる四谷怪談だった。