国立文楽劇場開場35周年記念 4月文楽公演

第1部 
通し狂言
仮名手本忠臣蔵 (かなでほんちゅうしんぐら)
  大序   鶴が岡兜改めの段
        恋歌の段
  二段目 桃井館力弥使者の段
        本蔵松切の段
  三段目 下馬先進物の段
        腰元おかる文使いの段
        殿中刃傷の段
        裏門の段
  四段目 花籠の段
        塩谷判官切腹の段
        城明渡しの段

第2部 
祇園祭礼信仰記 (ぎおんさいれいしんこうき)
        金閣寺の段
        爪先鼠の段

近頃河原の達引 (ちかごろかわらのたてひき)
        四条河原の段
        堀川猿廻しの段

 

何年か前に文楽劇場忠臣蔵をみたが、その時には上演されなかった段も今回上演され、また前回上演されていたのかもしれないけれどその時は筋を追うのに必死であまりしっかり気に留めていなかったところなども、改めてみてみるとなるほど後の段のこことつながっていくのだなあという楽しさがあった。

映画の「サラリーマン忠臣蔵*1をみたとき、あまりにも浅野の彼女に横恋慕した吉良というところに力が入りすぎだと思ったのだけど、今回鑑賞後、まさに顔世午前からの返し文がすごいきっかけになっていて、「サラリーマン~」の設定はこちらに忠実だったんだなあと思った。そして、おかるの罪も感じてしまった。また、「サラリーマン~」で三船敏郎が演じていた桃井の姿や志村喬が演じていた加古川本蔵、文楽のイメージとぴったり。浄瑠璃の中では批判的に語られる加古川だけど、私は好きだなあ。山崎努なんかが演じてもぴったりきそう。

「裏門の段」でこれから悲劇に突入していく時のそんな運命なんかお構いなしな感じの鳴り物入りの華やかさの演出が良い。それは「花籠の段」の顔世午前の生ける花の美しさにも相通じる。

 

祇園祭礼信仰記」は、松永大膳と秀吉の物語。これまたコミック「信長協奏曲*2でなじみのあった松永大膳。やくざがタイムスリップしたみたいな設定になっていて松方弘樹みたいな顔に描かれていたが、今回みたお人形も「口あき文七」という濃い顔の、自分のイメージに近い頭がつかわれていた。秀吉が色白のこんな二枚目のいい役なの?というのはあったけれど、そこは主人公だし、あまり気にせず楽しむことができた。また父からきいたところによると松永氏というのは、あぶれものを配下につけていたとか・・「信長協奏曲」の設定はなかなか深いなあと思わされた。

囚われの身となる雪姫というお姫様は、三姫といってお姫様の大役のひとつらしい。可憐な人柄は豊松清十郎さんが遣われるのにぴったりだと思う。文楽劇場に通い始めて6年目くらいかなと思うのだけど、その6年前の頃にくらべると世代交代を感じる。可憐な姫といえば吉田簑助さんだったような印象があるし、勘十郎さん、玉男さん、和生さんあたりが、出ずっぱりの感じだったけれど、今回その三人は一部だけの出演、簑助さんも四段目だけの顔世午前のご担当だった。

祇園祭礼信仰記」は舞台が大きく動くシーン、雪姫の、雪舟の子孫らしいファンタジックなシーンなどが特徴で、その辺も楽しめた。

「近頃河原の達引」は心中ものなのだけど、女性のお兄さんの猿回しのキャラクターがのんびりしていて話はシリアスでも上方らしい空気が流れている。二匹のお猿さんが曽根崎心中を演じたり、入れ子構造のたのしさがある。道行の原因を作った四条河原の段、「お家の浮沈に関わる大切なもの」「裏切り」など世話物の得意のテーマ。野沢錦糸さんの三味線の音色での心情の表現が良い。おしゅんについての話がさんざん出たと、満を持して現れる簑次郎さんのおしゅんの、暖簾のところからちょっとずつあらわれるしなが何ともよかった。