ポール・グリモ―短編傑作集 〜ターニングテーブル〜

ジブリ高畑勲宮崎駿に影響を与えたといわれているアニメーター、ポール・グリモ―。彼自身の出演による説明とともに、実写とアニメがうまく組み合わさり、作品が紹介されている。実写部分の監督はジャック・ドゥミジャック・ドゥミってつくづく夢のあるかわいらしい映画作りをする人だなあ。(wikipediaには、ジャック・ドゥミはポール・グリモ―と友人だったと記されていた。本当に友人ならではの愛情あふれるすてきな演出だったと思う。)

ジブリのサイトにあるポール・グリモ―の経歴はこちら
またこの映画のダイジェスト版、もあり。

収録されている作品の中で特に好きだったのは「かかし」と、「小さな兵士」(wikipediaには「小さな兵隊」と表記されている。ヴェネツィア国際映画祭アニメーション賞受賞作品。岩波こどもの本で読んだ「ナマリの兵隊」を思い出した。)

こちらのサイトで、この映画のことがとてもきちんとまとめてあるのだけど、そちらにも出てくるように、グリモ―は「鳥」や「音」がキーワードになる作品を多く作っていると思う。

2020/4/10
友人かなさんより、ポール・グリモーの「王と鳥」の深い内容の感想をメールでいただく。自分も「王と鳥」をみたはずなのに、どこにもその記録がなく・・こちらに載せておく。

王と鳥』、つい先程見ました。いや~、これ高畑さんに言われるまでもなく、すごいアニメですね。ラストシーンなど感動を通り越して背筋が寒くなりました。

高畑&宮崎アニメへの影響を相当の度合いで感じます。例えば王の城の外観は『ルパン3世 カリオストロの城』のカリオストロ城とまさにかぶりますし、外側を運行するエレベータ、内部の床が抜けて人が落ちていく装置もそう。城の急勾配の屋根を渡る煙突掃除の少年はルパンがクラリスを救出する時に見たシーンを彷彿とさせるし、王が執拗に手下を使って少女を追い詰めるところetc.もう書ききれないほどです。

また、王の部屋に飾ってあった絵もよく見ると実際の「ルイ16世の肖像」やベラスケスの「皇太子(パルタザール)騎馬像」をモチーフにしたものがありました。さすがフランスのアニメだと思いました、美に手を抜かない。

羊飼いの少女が「(少年と鳥を)自由にするっていったじゃない!」と抗議するのに対し王が「労働することが自由だ」みたいなことを言いますが、これ聞いた時アウシュビッツの門に掲げられた「Arbeit macht frei」を思い出したのは決して私だけではないでしょう。同時に恐いな、と思ったのが少女たちを救出することを鳥が訴えたのが人間ではなく動物たちであったこと。もはや人間を鼻からあてにしていない「言っても無駄である」と思っているかのようでした。そして、この鳥も曲者でライオンたちにしている演説がまるでヒトラーのように
聞こえたのです。差別的なことを言っているわけではないけれど、次第に加熱する話ぶり、決起を促す扇動・・というか洗脳?

そもそも有機の王(=実態)がかなり始めの段階で絵に描かれている無機の王(=絵)に入れ替わるのも恐い。あれ、見方によってはクローンとかアンドロイドじゃないですか?
少年少女が絵から抜け出してくるまではファンタジーを感じましたが、王の入れ替わりで何やら闇を感じてきました。そして、ラストで鳥がロボットを操作しますが、あれってもう少女たちを助ける、というより破壊が先にたってます。でも鳥は「操作には自信がある」と
言っている、正義という名のもとの徹底的な破壊。ロボットが廃墟の中に座り込んでいるラストシーン、本当に少女たちは救われたのか?下町の人々はどうなったのか?と多くの?マークがつき、思わず「これで終わりなんかい!この映画、怖い」と言ってしまいました。

まあ、最後に小鳥が助かる場面(でも、あの小鳥、何度捕まれば気が済むのか。少し学習能力が欠如しているのかな)があるので、それが救いって言えば言えないこともない気もしますが・・。とにかく衝撃的なアニメで、高畑さんが影響を受けたのも頷けます。
あと印象的だったのは、動きの柔らかさです。衣装の翻り方とか人の動きとか、王や少女の足の動きがやたらバレエ的だったのは、やはりフランスならではでしょうか?