1968年 ロベール・アンリコ監督
この作品は「一見地味だけどかめばかむほど味わい深い」映画が紹介されている「するめ映画館」という本に村上春樹による紹介が載っていた。
原題は「ジタ伯母さん」
自宅でピアノを教えるジタ伯母さん(カティーナ・パクシヌーという女優さんらしい)の良き年の取り方に惹かれ、ぐっと身体を乗りだしたら彼女が脳卒中で倒れてしまい、姪であるアニー(ジョアンナ・シムカス)の不安な気持ちに寄り添う物語に。
ジョアンナ・シムカス、トレンチコートがとても似合っていて清楚な美しさ。年取ってしまった自分からみると、世話になった伯母さんの危篤時に街をふらふらしていて、そわそわさせられる。。が、多分多くの人も経験しているような身近な人の死をただ見守らなきゃいけない状態に耐えらえなくなっている、その落ち着かない心の状況からの一晩、そこを描く作品だ。
だからといって、陰鬱というわけではなくて、心に何か抱えながらのバカ騒ぎはフェリーニの「甘い生活」のような空気も漂っている。
自宅療養で死への旅立ちを準備しているような部屋で心から伯母のことを心配しているアニーたち親子の疲れの表現もリアルだし、また彼女にはこの状況は酷だと判断し伯母が重篤な状態ではあるけれど、むしろ外で気分転換させることに積極的に加担する医師など、成熟した考え方であるなと感じさせられた。
伯母と彼女たち親子の絆はフランコ政権下のスペインで彼女の父(ジタ伯母さんの弟)が反政府活動をしていて死亡、彼亡き後幼きアニーたち親子を伯母が匿いアニーの養育に協力したということから始まっている。フランコ政権について全く詳しくはないが、ブニュエルのメキシコ亡命などに関わっていることは知っていて、自分は今ちょっとずつピースを集めている状態だ。
重病の伯母を置いてさまようアニーの心を映した、シニアの私にはハラハラさせられる筋ではあるが、ずっと彼女の心にあったであろう幼き日の彼女と伯母の思い出が映るシーンはとても美しく救いであった。わかりやすい大団円とか感動があるわけではなくて至極さらっとした人間描写の映画、自分の持っている世界観を越えてはいるが、心地よかった。