エンパイア・オブ・ライト

 

80年代の映画館の物語でかかる曲などにも親しみを感じつつすぐに入り込めるのだが、ただのノスタルジー映画ではない。時を遡った舞台であるがゆえに今日的な問題を落ち着いてちゃんと考えられるつくりになっている。サム・メンデス監督は「アメリカン・ビューティー」でも登場人物のとても美しい心を表すような画面を日常生活から切り取ってみせてくれていて、それがあのエグい映画の一筋の光、魅力となっていたが、この作品でも登場人物たちのお気に入りの場所を魅力的に映し出すことによって観ているものをぐんとスクリーンの中にひきよせてくれる。

主人公のもう若くない女性に個人的に親近感を感じてずっと寄り添いつつも「アメリカン〜」の記憶からなにか不安の影をどこかに感じながら観ていると、やはりこちらの胆力を試すような出来事が。でもここで主人公から距離をおいてしまうかどうかの物語なんだなあ。ああ突き刺さる。でもメンデス監督、素晴らしい円熟で突き刺したままでは終わらない。書いてしまうと陳腐だけど対話の可能性というものを抑制の効いたタッチで呈示してくれ、だからこそ私の中にきっちりとそのメッセージが根を下ろした。