ミッドナイトクロス

 

先日観たアントニオーニの「欲望」*1にインスパイアされた作品ということで鑑賞。確かに「欲望」から骨格をもらってきてデ・パルマ流の作品にしてある。デ・パルマヒッチコックの影響をよく語られるようだが、サスペンスでぐいぐい引っ張っていく力などにはヒッチコック的なものも感じた。そこにオタク的なこだわりをかなり加味していて独自のものになっている。

「欲望」ではカメラマンになっていた主人公がここでは映画の音響担当者。ジョン・トラヴォルタが演じている。自らの仕事のために集めていた資料音源が事件と関わっていてそこにのめり込んでいく構造、彼が真相を究明しようとしている所作まで「欲望」とダブっているけれど主人公の視点そのままの落ち着かない臨場感にあふれるカメラ運びなどには独特のものを感じる。お得意の分割映像も出てきて、デ・パルマ監督のそのものを味わう作品であると思った。「欲望」を観ているときは事件はあるのかないのか、ただカメラマンの心象風景を拡大してしたものでは?って感じがしたが、こちらでははっきりと事件を解くサスペンスものの形をしている。

事件のカギになるナンシー・アレンがすごくかわいい。ちょっとヒッチコック「ファミリー・プロット」*2(76)のバーバラ・ハリスも彷彿とさせるようなでたらめもありきのチャーミングさ。バーブラ・ストライザンドのメイク批判などのシーンも妙に具体的で力が入っていて、映画の音響をつけているトラボルタと夢ある二人という雰囲気で良い感じ。

作品としての小粋なまとまりとか細部への注意とかとは乖離していると思ったが、全力をかけたトラボルタの青春のほろ苦さの暴走は心に残る。若い店主が情熱的に作っている料理屋の食事みたいな感じ。バランスは欠くが、バランスを失うほどの勢いは魅力的。