文楽の公演などで、ある一場面だけを演じられ、そこに至るまでの話はあらすじで追うしかないということがままあるが、橋本さんはその物語の本質、肝要なところに切り込み、あるときは浄瑠璃ではなく同じ題材の説経節などに長い時間をかけて解説し、これはこういう話なんだよと呈示してくれる。(橋本さんは海外の映画でもそういう説明の仕方をしてくれる人だったなあ。)
ふーん、なるほどと一番思ったのは「出世景清」。歌舞伎の玉三郎さんが楽器の演じ分けをすることで「壇浦兜軍記」の「阿古屋の琴責め」の、阿古屋の夫が景清。あのだしもので、問題になっている景清ってどんな人ということはスルーになりがちだけど、その理由について考察したもの。
ほかの章もたとえば「夏祭浪花鑑」など現代のヤンキーにたとえてみたり、橋本さんのお仕事は楽しく読めるのだけど、それが、彼がきちんとした仕事をするという信頼のもと安心して享受できるものなんだよな。