主婦マリーがしたこと

1988年フランス映画。(1990年日本公開)。当時新聞評をみていて、関心があったけれど、ようやく鑑賞。問題作的なイメージを持っていたが、重くて硬い描き方ではなく、すぐ隣の主婦マリーの出来事としてすんなり入ってくる面白さ。監督クロード・シャブロルエリック・ロメールと共にヒッチコックについて書物を書いているそうだが、話法のうまさなどをみていると、なるほどと腑に落ちる。
舞台は1940年ナチ占領下の北フランス。まずは人助けのため、そのうち、お金のため、堕胎業、そしてのちには娼婦への部屋貸しに手を染めるマリー。占領下、屈折したエネルギーやプライドの見せどころという感じで道徳にこだわり始めた国の見せしめとなるその過程が、現代の日本にも一脈通じていて、心からはっとさせられる。
登場人物たちの描き方に極端なところがなく、残酷なまでのリアリティー。でもそのシビアさが決して苦痛でない。その辺もヒッチコックに相通じるものがあるように思う。画面の中に生きている人それぞれの視点、立ち位置が丁寧に描かれている。シャブロル監督、「虎は新鮮な肉を好む」*1という、空間をずらしたような異色のスパイものみたいな、多分少し毛色の変わったものしかみていないので、他の作品もみてみようと思った。