勝手にふるえてろ

 

勝手にふるえてろ [DVD]

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主題はとても理解できるし、経理女子の松岡茉優がかわいいし気持ちがわかりすぎてぐんとひきつけられたんだけど、ところどころ演出が突拍子もなさすぎてついていけないときも。でもこれくらいのテンションで描かないと辛気くさいかな。。なんか今よくあるすっとんきょう系の演出のようなところを感じ、画面の中のひとだけあったまって、みているこっちはついていけない気分になる瞬間があり、そこはちょっと残念だったかな。。原作の方がいろいろなことに邪魔されずに楽しめるのではないかと思ったけれど未読なのでなんともいえない・・ 

ことばや感じ方が細やかに表現されているのはとてもよかった。特に「愛」という言葉へのデリケートさは二重丸。

松岡さんや相手役の黒猫チェルシー渡辺大知氏などは細やかな気持ちの変化のあらわしかたがうまい。黒猫チェルシーの主題歌もなかなかいい。

 

天皇の世紀 第二部

天皇の世紀」のテレビドラマ版がふや町映画タウンに入荷した。どうも天皇の世紀というのは一部と二部になっていて第一部はテレビドラマ、第二部はドキュメンタリーだったよう。(wikipedia参照)

この機会に、と、以前日本映画専門チャンネル伊丹十三特集の時放映され録画していたドキュメンタリー版の方をみてみた。伊丹さんがずっと通して進行係をしている。演出担当はそれぞれ・・これまたテレビマンユニオン今野勉さんとか、黒木和夫さん、また伊丹さんの回もある。オープニングの冨田勲の音楽、そして絵がなんともかっこいい。絵はwikipediaによると中川一政さんという方の絵らしい。

73年当時の京都の町中で撮っていたりして風景も懐かしい。たとえば薩長同盟の回で、薩摩藩邸だった同志社大学の正門がうつるのだが、70年代らしい学生運動っぽい文字の立て看板などもうそれだけで懐かしい。また池田屋騒動のときは、北大路駅から市電に乗って御所あたりまで伊丹さんが電車の中でしゃべっていたり。。人を喰ったような独特の番組作りがなんとも伊丹さんらしくてわくわくする。龍馬暗殺の回の、河原町三条と四条の間も70年代こうだったなあともう胸がかきむしられそうになる。

伊丹さんの担当した廃仏毀釈、考えもなしに大きな流れに迎合してしまう日本人の話は胸にささる。第二十五回「武士の城」では、仙台藩世良修蔵の関係が語られたが、世良修蔵という、維新で成り上がってずいぶん横柄な態度で会津をうつべしと仙台にせまった人、なんだか現代でも、こういう連中いるなあと思ってしまった。第二十六回「絶筆」では、長岡藩のことがとりあげられていた。テレビでやっていた大林監督の最後の講義という番組*1で、長岡のはなしがでてきたことを思い出した。(「負けた側の歴史」負けたさととかおっしゃってたかなあ・・?)

 

天狗飛脚

天狗飛脚 [DVD] COS-039

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とっても楽しめた。ひとが懸命に走ってる姿って心を動かされる。筋も楽しくかつ胸をうつもので(起伏がいい感じ、そして五十三次をからめるストーリー運びも楽しい)、丸根賛太郎監督やっぱりいいな。

大好きな志村喬がまたまた好人物の役人役。完璧な人間にしていなく、抜けがあるところがまたいい。

主人公の市川右太衛門、いままで割合大御所的なものをみてきたように思うが、この、走ることだけが取り柄の男、とても魅力的だ。

ヒロインの可憐な感じもよかった。相馬千恵子さんとおっしゃるらしい。

もぐらの太平という人がどうも加東大介に似ているなと思っていたが、yahoo movieで調べたらご本人だった・・ついでに沢村貞子に似ていると思っていたおえいさんもご本人。そして平太郎という子役は沢村マサヒコ(津川雅彦)であった。。(沢村貞子と親子という設定)。大阪商人浪華屋伝兵衛を演じた上田吉二郎の大阪弁が江戸の話の中でなにかアクセントに感じられた。

もぐらの太平は、三人組で出てくるのだが、その三人組の間の抜けた味がまたよくて。その中で一人、俊足右太衛門のかわりに走る羽目になる人物が出てくるのだがこの人の感じもいい。(どうやら羅門光三郎という人らしい。)

yahooムービーのbakenekoさんのレビューをみてはったとしたのだけど、「うさぎとかめ」の話をうまく使ったり(しかも、天狗になっているうさぎが主人公という設定)、音楽もなにか洋風のとぼけた味があって、結婚行進曲をかなしげにアレンジしたものを使ってみたり、ほんとしゃれている。

猫のエルは

 

猫のエルは

猫のエルは

 

 町田康氏とヒグチユウコ氏、お二人とも猫を題材に作品を作っておられ、親しんでいたけれど、こうしてコラボレーションされるとは!読み終わってはじめて挿絵の意味がわかり、さらに心に迫る考えられたお仕事。既出のものもあるけれど、なんだか新鮮で、町田さんの猫や犬の作品群に出てきたあの子の話だったのね、と最後にわかったり。文章もストイックで楽しく切なく美しく、贅沢な時間が過ごせた。

彼女がその名を知らない鳥たち

 

彼女がその名を知らない鳥たち 特別版 [DVD]

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 wowowの「W座からの招待状」という小山薫堂信濃八太郎が案内する主にミニシアター系の映画を案内する番組では、この映画に出てくる人たちを突き放した言い方ではないにせよ「くず」と紹介していたけれど、くずどころかすごい親近感を持って話にのっていった。

蒼井優が関西の、そこらへんにいそうな人を好演。しっかりしているような、こわいような、純情なような感じ、すごくリアリティがある。

最後の最後の落とし込みようはどうなのかと思ったりもしたが、本当の最後の蒼井優の台詞もきいていて、持っていかれた。

阿部サダヲも、その場その場でのその感じの出し方がうまい。主演二人の力がなければこの映画の世界は成り立たないものなあ。

とにかく全編息もつかさず楽しめる。白石和彌監督やはりおもしろい。

 

プレイグ

 

プレイグ [VHS]

プレイグ [VHS]

 

 

少し前、「100分de名著」で「ペスト」を取り上げていて大変感銘を受けた。災厄の話ということでなにか遠ざけていたのだけど、いまの自分とそんなにもつながっている話だったのかという感じ。

www.nhk.or.jp

 

「ペスト」原作の映画ということでこの作品をみてみたが、映画をみてから「100分~」のサイトをみたら、登場人物に関してああ なるほどと思いはするものの、やはりこれは原作のほうがきっともっと魅力的だろうと感じたし、原作を読まねばならないという気持ちになった。

 

映画の方はネズミを介して伝染する恐怖のリアルさや、すぐ現実を忘れてしまう愚かさをつきつけはするけれど、女性キャスターに力が入っていて、しかも終盤のほう、ちょっと説明不足で、安っぽく感じられるような展開になっていて、なんだかもとの素材が素晴らしいのにもったいないという印象を受けた。

 

余談だけど、「100分de名著」はほんといい番組だ。軽い気持ちでみていた「赤毛のアン」ももらい泣きしてしまった。。そういえば、ジュニア向きの特集の時もよかったな・・造形芸大で舞台をみたときは、斬新すぎる展開にやや未消化にもなってしまった木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんの古典への熱、それを若い人に伝えようとしている姿勢を見、なにか彼の真意に触れた気がした。

www.nhk.or.jp

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国立文楽劇場 11月文楽公演

第1部 午前11時開演
蘆屋道満大内鑑 (あしやどうまんおおうちかがみ)
  葛の葉子別れの段
  信田森二人奴の段

桂川連理柵 (かつらがわれんりのしがらみ)
  六角堂の段
  帯屋の段
  道行朧の桂川


第2部 午後4時開演 
鶊山姫捨松 (ひばりやまひめすてのまつ)
  中将姫雪責の段
  
近松門左衛門=作
女殺油地獄 (おんなころしあぶらのじごく)
  徳庵堤の段
  河内屋内の段
  豊島屋油店の段

蘆屋道満大内鑑」、パンフレットによると、演じられた二つの段の間のあらすじとして、

信田へ向かう三人は、途中で蘆屋道満に出会います。道満は、本来保名が継ぐべきであった「金烏玉兎集」を返しに来たのです。保名はこの書を童子に譲ります。子供の並外れた知能に驚いた道満は、童子に晴明という名を与えるのでした。保名は道満が乗ってきた駕籠に葛の葉姫と童子を残し、信田の森へと向かいます。

 

と書いてあり、漫画「陰陽師」などで、ライバルとしてしか認識していなかったので不思議に思ったところ、鑑賞ガイドに、蘆屋道満の意外な人物像を描くことが作者武田出雲の主眼だったと書かれていた。(でも子別れのところばかり多く上演されるとのこと)

 

「狐詞」と呼ばれる特殊な語り口で葛の葉が人間ならざる存在であることが表現されているとのことだけど、この「狐詞」、「義経千本櫻」の狐忠信のはなしかたにも似て、本当にキツネ風でおもしろい。「二人奴」の段の奴与勘平、奴野干平(狐が奴与勘平に化けているもの)とのやりとりも、それがまた善意から化けているということもあいまってとても楽しめた。

桂川連理柵 」は、パンフレットにあったくまざわあかねさんという落語作家の方の文章に

 

実際のお半・長右衛門は心中ではなく他殺であった、と『芝居ばなし 鳶魚江戸文庫25』(中公文庫)に江戸学の祖・三田村鳶魚が書いています。鳶魚氏いわく、滝沢馬琴『異聞雑稿』の中に

「お半が大阪へ奉公にいくことになったが迎えがこないので、たまたま京都に来ていた知人の大阪商人・長右衛門が同伴して大阪へと連れて行くことになった。桂川から船に乗ったところ、偽物の船頭が路用の金を奪い、二人の褄を結び付けて川に投げ込み、情死に偽装した」

との説が挙げられている7のだとか。すぐに犯人が捕まらなかったことから、世間的にも長らく心中事件とみなされていたそうです。

 

って、本当に驚きでしかないし、くまざわさんも書かれていたが、本物の長右衛門さんこんな風に描かれていると知ったら心中やいかに・・と思ってしまった。

 

鶊山姫捨松 「中将姫雪責の段」は、もちろんここからの展開のためとはいえ、ここだけみるとなかなかしんどく、陰惨系の話が苦手な父は顔をしかめていた。でもここでのこれを求める観客の気持ちに応えてこういうものがずっと演じられているのだよな、そうでなかったら手ぬるいという感じに見えてしまうのだろうなと思った。

 

文楽や映画でみるたび少しずつ印象の違う「女殺油地獄」、今回はかなりモダンな、コーエン兄弟の「ファーゴ」のような印象を受けた。タイミングというものの持つ恐るべき力のようなもの。近松門左衛門のことばのおもしろみも凄く感じた。

 

今回、一回の資料室で企画展示されていた「文楽人形 衣裳の美」がとてもよかった。

www.ntj.jac.go.jp

「平家女護島」の千鳥の衣裳のグリーン字に磯のものがあしらわれているもののかわいらしいこと!(リンク先のパンフレットの写真参照)さらに堂本印象のデザインでの「四季の曲」の衣裳図案の美しいこと。娘役の人形の後ろの襟袈裟の凝っていること。(文五郎さんの名前がデザイン化されたものが展示されていて吉田和生旧蔵とある。)

今回もここで娘袈裟というもののことをはじめて知り、舞台でも注意してみることができた。

さらに、文楽人形のものではないけれど、小山拡賜という方の旧蔵という、櫛や簪などの工芸品の美しいこと。筥迫の刺繍のかわいらしさもあるすばらしさにみとれた。