熊は、いない

unpfilm.com

イラン国内で映画撮影を禁じられたジャファル・パナヒ監督作品。

トルコから偽造パスポートを作って脱出しようとしているカップルの映画をトルコ国境地帯のイランからパソコンによる遠隔指示で作り上げようとしているパナヒ。制作中、滞在中の村での結婚の掟破りにまつわるごたごたに巻き込まれ。。という構造になっている。

「人生タクシー」*1ではなんとか撮れる手を考えて、ゲリラ的に作品を割合コミカルに完成させていたパナヒ、この作品にもそれでも撮るという逞しさはあるものの、一応表面上の主題になってドラマティックに描かれる男女二組の物語より、ところで、これを撮っている時こんなこともありました、と雑談的に挟まれるイラン脱出の誘惑とその後の厳しい取り調べに滞在先の村人が神経質になっている様子が全編通して一番リアルに響く。
「熊は、いない」というのは途中に出てくる村人の言葉で、掟を守らせるための掟の空疎さを象徴的に表したもの。なんのための掟かという問い、自分の意見を表明せず黙っていたほうが安全だけど、黙っているわけにはいかないという監督の心情をギリギリのところで表明したものだと思う。とりあえずは自由に発言できる国の作る物語よりはかなり暗喩的というかやんわりとしか表現できていないように感じたけれど、これでもいっぱいいっぱいなんだろうな。現にこの映画完成の後パナヒは逮捕されてしまったそうだしそれをあえてテーマ的に描いていないが国境地帯の密輸の話など真実味があった。
人間の世界の揉め事の横で泰然と自分の刻を生きている犬や猫の姿が印象的。村人がどんどんパナヒに面倒ごとを強制してくるくだり、リアルで見せる。