先日石田民三監督の幻のフィルム「おせん」(1934)を拝見する機会を得た。「おせん」と石田民三についてはこちらのページに詳しいが、「おせん」の原作本の小村雪岱の構図を借りた浮世絵の構図が評価されている。
雪岱については松岡正剛氏によるこのページや弐代目・青い日記帳とおっしゃるこちらのページに詳しいが、この石田民三監督の映画「喧嘩鳶」の原作も「おせん」と同じく、邦枝完二*1のものに小村雪岱の挿絵がなされたものであり、この映画の構図も小村雪岱の構図をかなり取り入れているのではないかと推測される。*2人物や背景の配置などとても美しい。人物は大きな画面の中の1パーツのようで、そのことを思った時連想したのが、溝口健二監督の「残菊物語」*3の画面だ。松岡氏の記事に載っているが、原作村松梢風の「残菊〜」の挿絵も小村雪岱が担当されたとのこと、なにか小村雪岱の仕事の流れというのをとても体感しているところだ。
「意匠の天才 小村雪岱」の舞台美術のコーナーでも原田治氏の文章で小村雪岱が、歌舞伎舞踊所作事の舞台装置について、
演技者の扮装、色彩、持物から、演技中舞台を如何にして右し左し、前後して踊るか、その形、身振りまでを充分知りつくしたうえで、背景の山なり松なり雲なりを、その演技に順応するやう配置、考案するので、ただ美しい山、美しい雲を描くだけではすまないのである。
と書いていたと記されている*4が、確かに風景と人物が溶け合って完成という考え方がここにも表明されていると思うし、この映画からもその美学を感じ取った。美術担当は中古智氏。成瀬監督の美術でお名前を覚えたのだけど、その仕事の源流を拝見した気分である。
こちらのブログには小村氏描く「お傳地獄」と犬神家の構図の類似が出ているのだけど、この「喧嘩鳶」の制作主任のところに市川崑の名前も載っているところをみると、市川崑の世界は小村氏の影響を受ける環境にあったと考えられる。デザイン的に優れた小村氏の絵画、市川崑氏がその流れを汲んだと考えてもおかしくないだろう。
- 作者: 原田治,平田雅樹,山下裕二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本からのメモ:雪岱と出会う美術館
生誕地。郷土ゆかりの作家として数多く蒐集。コレクター田中利明氏による田中屋コレクション。
雪岱に師事した山本武夫氏の旧蔵作品。挿絵原画のほか貴重な肉筆画も。
「見立寒山拾得」などの肉筆画の名品、デザインを手がけた着物に至るまで300点以上に及ぶ幅広い雪岱コレクション。
「おせん」の挿絵原画、舞台装置原画。商品パッケージや雪岱も制作に携わった資生堂書体の変遷。
舞台装置や衣装も雪岱の基本デザインが現在も受け継がれてものがいくつかあるという。玉三郎と七之助の「二人藤娘」も美術に雪岱の名が。
年譜に載っていた映画関係の仕事
- 1934 映画版「おせん」 装置・考証。
- 1940 「蛇姫様」「白鷺」の装置・考証。