昭和14年岡田敬監督作品。
湖のそばの古風な旅館の大番頭の金語楼。金語楼のしゃべりを味わう映画。
画家の偽物が現れ・・というシークエンスがあるが、横山大観をもじった横川小観という名前。大衆文化評論家 指田文夫さんのブログにこの偽物嵯峨善平さんと本物深見恭三さんのエピソードが載っていて興味深い。深見さんは貫禄あった。
水戸黄門漫遊記
エンタツ、アチャコが旅の宿で隣に寝てた柳家金語楼演じる講釈師を巻き込んで、一緒に行動しているうちに水戸黄門ご一行と間違えられる筋だが、柳家金語楼の巻き込まれ方、いやいややらされているのにノリはじめる感がとても愉快。同梱の解説(会社で作ったもの)によると、柳家金語楼は笑いの神様とまで言われたという。
最近気になっている高勢実乗氏もユーモラスな敵役としてちょうどいい塩梅に出演。(敵の山賊他)柳家金語楼との間合いもよかった。「カナワンヨ」のセリフも。
徳川無声が本物の黄門役で出てくる。←ちょっと悪人顔にもみえるが、だいたい黄門さまは悪役やってきた人が配役されることも多いようなことも読んだことが・・
ビデオに同梱されている山根貞男さんの「お楽しみゼミナール」によると、エンタツ・アチャコの漫才コンビは1930年に結成、34年からラジオやレコードを通して全国的に広がっていったが、1936年東宝の前身であるPCLが二人の所属する吉本と提携し「あきれた連中」をつくり、大ヒットしたそう。これには、もう一つ理由があり、エンタツ・アチャコは当時すでに漫才コンビを解消していて寄席では見られぬ漫才コンビを映画でみられたという側面があるという。以降"映画でしか見られない漫才コンビ"として、エンタツ・アチャコの主演作をつぎつぎ製作し、いずれも大人気を呼び、1937年PCLがJOスタジオなどと合併して東宝となったあとも製作体制はそのまま引き継がれたという。そして、この映画も1938年に東宝が吉本興業との提携のもと作ったという。
またパンフレットの会社側の作った解説の文章によると、これは、もともと「東海道の巻」と「中仙道の巻」の前後二編に分かれていたのを戦後大会版として再編集された短縮版だという。娯楽作品だし、そこはそんなに気にならなかった。
をり鶴七変化
お家騒動に二役をからませてあって、先日観た「桃太郎侍」*1の系譜を思い浮かべたが、ビデオにはさまれた「山根貞男のお楽しみゼミナール」という冊子によると、
お家騒動、女形の役者、二役と見てゆくと、「雪之丞変化」(三五)から「小判鮫」(四八)「蛇姫道中」(四九)まで、長谷川一夫の映画がつぎつぎ思い浮かぶ。
とある。ストーリー展開的には少しわかりづらい部分があったと思う。気にせずみていったらなんとかなるれど。
主人公を務めた伊原史郎氏は、常磐津総家の御曹子・岸沢輝太夫が映画界にデビューしたものだけど、その後姿をみないということで、売り出しには失敗したと思われるとの山根さんの評。わたしは、女形の台詞が大好きなのでそこがとてもナチュラルで、みかけもすっとしていてみていて好きだった。
出だしの傘のシーンはとてもはっとさされられた。山根さんも傘の波、人の波、あるいは何度も出てくる斜め俯瞰のロングショットなど、ベテラン石田民三のみごとな画面づくりとしながらも、それが、新人が画面であまり映えないので空転しているというような評。そのぶん皮肉にも渋く輝いていたと書かれているのが、脇の月形龍之介。確かに月形龍之介は目をひく。
色川武大さんの「なつかしい芸人たち」*2や、「エノケンの孫悟空」*3でお姿を意識して拝見して以来気になっている高勢実乗さん(山根さんによると"あのねのおっさん")の易者姿が目をひく。「ワシャ、カナワンヨー」の決め台詞も。
籠屋が定番の権左と助十かと思いきや、こちらのサイトの指摘で、助三と権十と気づく。ノリは権左と助十だった。
浪人稲葉幸助を演じた澤井三郎氏いい味。
脚本の大和田九三は石田民三のペンネーム。角田喜久雄の原作小説は、1956年にも勝新、玉緒主演の「折鶴七変化」として映画化されたと山根さんの解説にある。
故郷
これも「権左と助十」*1と同じく伊丹万作作品。夏川静江演じる喜多子は、信州の実家の大いなる犠牲のもとに東京の女子大を卒業、実家に戻るが、身についてしまった都会風が邪魔をし、実家の生活になじめない・・実家は実家で釈然としない思いになる・・この空気、すごくリアルに伝わる。
「修善寺物語」*2で一徹な面職人、夜叉王を演じた六代目坂東簑助が、喜多子の兄。思いがよくわかる存在感。
まずは夏川静江の弟の、家業のお手伝いのシーンからはじまり、この小学生の描写が細やか。脚本を作られた「手をつなぐ子等」などでもこどもの表現がナチュラルでしっかりしている伊丹監督らしさを感じた。
信州の高い山、またスキーの大会などの風景に惹かれる。
こちらのブログを拝見していると、丸山定夫氏は教師とその父親の二役をこなしておられたということ。
権左と助十
こちらも「修善寺物語」*1と同じ岡本綺堂原作。大岡政談を下敷きにした駕籠かき二人がタイトルになった物語。歌舞伎になったり*2、何度も映画化されている*3らしい。
まずは店賃回収に苦労する大家さんの話から店子の面々の様子が知れる。ユーモラスでテンポの良い作品。伊丹万作っぽさを感じる。
助十役の小笠原章二郎さんのハンサムなこと。*4
按摩の六蔵がおもしろい表情だし、みんなが集まっているところでも彼の顔がまざるだけで楽しい!と思ったら進藤英太郎さんが演じていたらしい。
高堂国典氏演じる大家六兵衛をみていると、店賃の回収には難儀しているものの店子には意見したり父親的存在なのがみてとれ、そこは「髪結い新三」のような世界と地続きだなと思った。
長屋の連中総出(が原則の)井戸換え*5のシーンも印象的。
女優
松井須磨子を山田五十鈴が演じたもの。衣笠貞之助監督。ビデオに同梱された「山根貞男のお楽しみゼミナール」の文章によると、溝口監督の「女優須磨子の恋」も同じ1947年の少し前に公開されていて競作として話題になったらしい。
山田五十鈴演じる松井須磨子はえらく激しく、劇団の内外に波風が立ったであろうことだけは感じ取れた。
山根さんの解説によると、山田五十鈴はこの当時“恋多き女”として有名だったそう。
戦前から戦中にかけて、俳優の月田一郎、プロデューサーの滝村和男と結婚・離婚をくりかえし、新派の花柳章太郎と恋に陥り、さらに戦後は衣笠貞之助監督と結ばれた。(中略)(この映画の)三年後にその恋も終わり、妻子のあった加藤嘉と結婚したあと、これまた離婚して、さらに“恋多き女”として生きてゆく。
とのこと。加藤嘉とのことくらいしか知らなかった。
島村抱月役の土方与志という方が品も良くインテリっぽい雰囲気でとてもよかったが、礫川全次さんという方のブログにその出演の裏話が載っていた。
all cinemaのレビュー欄にも載っていたが、有島武郎「死と其の前後」舞台上演シーンも印象に残る。