河内山宗俊


マドンナ役、15歳の原節子の可憐なこと。マドンナってひとつ間違えたら、はいはい、ご馳走様、みたいな気持ちになりかねないところ、まるで嫌味がなく、私心なく応援したくなる感じ。この撮影現場をみて、アーノルド・ファンク監督が「新しき土」のヒロインに彼女を抜擢したのもよくわかる。

用心棒役の中村翫右衛門に魅力を感じた。顔立ちは二枚目ではないのに逆にそれもあいまって惹き付けられる感じ。

河原崎長十郎演じる河内山と用心棒市之丞の無償の闘いは歌舞伎「天衣紛上野初花」とジョン・フォードサイレント映画「3悪人」を下敷きにしていると大阪シネ・ヌーヴォで公開時のちらしに載っていた。

あと最近気になって仕方ない高勢実乗氏もよい味で登場。でも目立ちすぎず、ちゃんと監督のコントロール下にある感じがした。

2018年の10月28日に日経新聞に山中監督の特集でこの映画のことが取り上げられていたが、そこに「バンコクナイツ」公開時の富田克也監督のインタビューの言葉が、載っていた。人を助けること、人に施すことが当然という空気のバンコク下町やタイ農村部から帰ってきて、この映画を見直し、身に染みたとのこと。この映画のなかの義侠心のようなものは、いまの日本では考えにくいが、アジアにいると自然に感じ、原発後の日本の状況の中で、自分たちも逃げるばかりでなく、意思表示をして立ち向かう気持ちになれたとのこと。

ちょうど少し前富田監督の「サウダーヂ」をみて、なにか強く訴えかけてくるものや新しさを感じたので、この作品に対する富田監督の言葉が嬉しい。

 

河内山宗俊 [DVD]

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重版出来 12

 

重版出来! (12) (ビッグコミックス)

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疲れて帰って来てこの作品を読むのは大いなるたのしみ。こちらのコンディションを選ばずに寄り添ってくれる度量の広さ。

読まれる作品とはという分析を作品中でするのって度胸も実力もいる仕事だなあ。

わたしほテレビ版で荒川良々の演じていた壬生さんの感じかたに共感。

湖の琴

水上勉原作作品。滋賀県余呉湖には羽衣伝説があるという。無垢なるものへの人間の希求と、はかなさといったものもベースになりつつ、三味線の糸の産地が結ぶ京都との縁など興味深いストーリーであった。三味線の師匠を演じたのは先代の中村鴈治郎。なにもしてなくてもはじめから疑いの目で見続けてしまった。*1本来はあぶないバランスの上にたっている存在だと思うのだが。。

この作品、原作は読んでないがなんとなく文章だけのほうがイメージがふくらんで、神話的な世界にどっぷりつかれそうな気もした。

その村の環境、糸の製造に関する説明はとても丁寧でよかった。

あと、優しい親方を演じた千秋実氏はしみじみよかった。最近、千秋氏の良さがぐーんと自分の中で意識されている。

湖の琴 [VHS]

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*1:鴈治郎さん、勝手に「雁の寺」でも好色坊主を演じたと思い込んでいたけど、「雁の寺」ではあの坊主は三島雅夫という方が演じていたらしい。先日、ふや町映画タウンでそのはなしが出て驚愕。イメージによる思い込みの強さを痛感。

夢のバスにのって

原題「JULIANA」。1989年ベルリン国際映画祭 ユニセフ審査委員会賞受賞のペルー映画。フリアナというリマのスラム街に住む女の子の物語。墓地の掃除で日銭を稼ぐ日々を送っているが、義父の横暴にたえかねて、家出。男の子の格好をして弟のいるストリートチルドレンのアジトに住み、バスで歌を歌って乗客から小銭をもらって暮らしはじめる。登場しているのは皆、ほんもののストリートチルドレンらしく、その子の雰囲気にあった独白をそれぞれに語らせているシーンが印象的だった。つくってはいてもその子からにじみでている何かがリアリティーをもたせ、深い洞察を感じさせる表情は、長い人生を苦労して歩んできた老人の顔にも通じるものがあった。南米ならではのリズムや風景も乾いた楽しさ美しさがあり、核になるストーリーも素朴ですてきなものだった。

 

 

 

馬喰一代

 

馬喰一代 FYK-172-ON [DVD]

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日本映画傑作全集vhsで鑑賞。

三船敏郎演じる北見の馬喰片山米太郎と金貸し小坂六太郎を対比させて話が進んでいく。片山の方は気っ風の良さみたいなものを一義に置く男で、銭勘定とは無縁。思いきりが良くこんなところでと思うようなところでポンとお金を出してしまったり(これ、なかなか面白いエピソードだった)腕はいいのに貧乏暮らし。対する小坂は人に馬鹿にされないパワーはまず金からという考え方の持ち主。腕もあるのにもったいない、って感じで、片山やその家庭をみている。議員なんかにもなる小坂だが、その実際的な考え方がなんだかかっこいい!という風にみえた。志村ファンには嬉しい一編。そして志村さんの歌のうまさにも今回改めて注目した。そういえばオペレッタ「鴛鴦歌合戦」などにも出ておられたよな。

小坂の選挙演説と浪花節をうまくからましたり、京マチ子演じる片山を慕う女ゆきのセリフにしろなかなかしゃれていて、脚本がいいのかなあと思った。脚本は成沢昌茂と、この作品の監督でもある木村恵吾となっている。

大奥 16

和宮の江戸での暮らしが中心。史実をベースに面白く話をころがしてあるなあ。ちょうど「天皇の世紀」でもみてきたところでとても頭に入りやすく楽しめた。島津久光、「天皇の世紀」第一部では佐藤慶が演じていたが、こちらの作品の絵も佐藤慶似。

阿波の踊り子(剣雲 鳴門しぶき)

昭和16年 マキノ正博監督作品。
仇討ちを阿波おどりにまぎれて行うはなしだけど、確かにトランス状態の群衆、そして人によっては仮面など、なにが起こってもおかしくない状況が、なにか陽気さの影にあって、参考になった映画はあるらしいが*1、よい目のつけどころだなあと思った。
山根貞男氏の解説によるとやはりマキノ監督の「弥太郎笠」でも村祭りと躍りとお面が印象深く描かれ、それに合わせて闘いがくりひろげられるという。
娘っぽい風情の高峰秀子の陽気にふるまったあとのさびしそうな表情などがすばらしい。
人形遣いが出てくるのもみていてたのしいし、人形遣いを含むでこぼこ三人組みたいな連中も面白い。

*1:1921年のフランス映画「三仮面」