べニスに死す

 

ドイツ的で均整のとれた人生を努力で送ってきた教授がベニスで理屈詰めでは到達できない美そのもの生そのものの輝きに圧倒されるこの話、衰えを感じてきている自分には随分身につまされる作品だった。ヴィスコンティの作る画面は美しく、手の動きまで優美なダーク・ボガード演じる教授に残酷な演出を施して辛い、だけどこれで良かったんだろう。堕ちさせたかったんだろう。

美そのもの、生命そのもの象徴であるタジオが弾くピアノ「エリーゼのために」の拙さがまたいい。ダーク・ボガード演じる名だたる音楽家である教授はあの戯れに弾いている存在感に圧倒されてしまうんだなあ。そしてやはり戯れ弾きの「エリーゼのために」を昔聴いた売春宿の回想シーンを挿入する監督の意地の悪さ。観終わってから、教授がマーラーをモデルにしていると知り、驚きやら納得やら。もっとマーラーのことも知りたくなる。