余命一年、男をかう

吉川トリコさん、ライムスター宇多丸の番組で女子アナウンサーと女芸人が主人公の「夢で逢えたら」が奨められていて読んでみたのが出会い。

 

女子アナウンサーや女芸人に読者や小説の中の人々が勝手に抱いている型を崩していくところに爽快感があり、安易な決着じゃないのに意外な方向ですとんとくる爽快感があった。

 

今回読んだ「余命一年、男をかう」は新聞の書評に載っていたのが読むきっかけ。

超節約家のOLの語りで始まる物語、日常のデティールに自分と重なるところが多く、またガン体験者からきく話とも親和性があり、すいすいと読み進む。ガンの告知を受けてなんだか頭がぼーっとしてしまったタイミングで、病院でやけを起こしていたホストと出会い・・という展開だが、普通の色恋沙汰な感じでなくとにかく面白い。思い浮かぶのは年がいって自分の身の回りの世話をしてくれる人とくっついてしまう芸能人男性の姿。

途中から語り手がホスト側になり、視点が移動するところではっとした気づきが。視点が変われば世界も変わる。この落差が面白い。そこまで女から男にお金を提供するような形で描かれているからすいすい読んだり娯楽として受け流したところに、実はいまの社会の大事な問題点がわかりやすく表現されていることに気がつかされ、それをあくまでエンターテイメント性の高い文章でそこに思い至らす技量、そして型にはまらぬ着地点。これからもトリコさんの新刊は楽しみだ。