ソクーロフ監督作品二本

アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画を二本鑑賞。

 

一本目「穏やかな生活」。

明日香村の百年を超す家に住む老女の暮らしを静かにみつめるもの。amazonのリンクに名前が出てくる古川利風さんは、尺八担当。ほとんど言葉のない世界。監督はひとつのあこがれとしてこの映像を撮ったのではないかと思うけれど、自分もこれほどの規模の、ではないが、古家で一人で居ることが多くなったもので先輩をみるような気持ちにもなる。一人暮らしに不安はないわけではないけれど充足感も表現していた「おらおらでひとりゆぐも」*1も思い出す。老女の静かな暮らしをカメラはなぞり、その心持ちはわからないのだが、最後の最後彼女がうたう俳句によって彼女の心持ちがわかる。俳句でああなるほど、と思ったのは私、ほとんど生まれてはじめてかも。日常の発語が表現されていない分ダイレクトに伝わった。

そしてもう一本は「ドルチェー優しく」。小栗康平監督の「死の棘」*2を観て以来、松坂慶子が演じた妻、島尾ミホさんのドキュメンタリーをソクーロフ監督が撮っているときいてとても関心を持った。「死の棘」を観た時、目の前で父を責める母を毎日みることになる状況が心配になった娘さんも映っていた。「死の棘」の映画の中でも少し描かれていたが、やはり父母の暮らしの影響があると感じないではおれなかった。ソクーロフ監督は実在の人物をテーマに映画を作ることが多いときいている。少し前に観たチェーホフを題材にした「ストーン」も昭和天皇を描いた「太陽」も、とても静かな表現の中に滲み出すような温かみ、かすかなユーモアが共通していて、不思議な居心地の良さを感じた。この「ドルチェ」も、島尾ミホさんを包み込むように描いていると思ったが、ミホさんの、揺るぎなさすぎるところは自分には恐ろしかった。