文豪ものふたつ

気が付けば文豪原作の映画を続けて観ていた。

豊田四郎監督の「暗夜行路」と森田芳光監督の「それから」。

「暗夜行路」はふや町映画タウン所蔵の日本映画傑作全集VHSで鑑賞。

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タイトル通り池部良演じる主人公がふさいだり、自分の気持ちをなんとかしようともがく筋立てなのだが、後半の悩みのターゲットである山本富士子演じる妻が可憐で可憐で、起きた事態は事態として気の毒になってしまう。彼女にも心の隙があったり反省点はあるだろうが、主人公謙作だって淡島千景演じる、身の回りの世話をしてきてくれたお栄さんへの想いとか行動とか中途半端で罪作りな感じだったし、心の中の整理がつかないのはしょうがないし、そういう物語なんだけど、付き合ってるこっちは他人事なものだから、つい辛気臭いことよなあと思いながら観てしまう。

ただ妻になる山本富士子との出会いが京都だったり(鴨川に面して出入りできている風)、新居を南禅寺の近くに構えたりして自分の地元京都を味わえはする。祇園囃子が、南禅寺の家で聴こえる設定は離れているからないだろうなとは思ったが、まあ風情ということで・・

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南禅寺水路閣の上の流れの速いところを早足→小走りになる池部さん。あそこ通る時、体力のない自分はおっかなびっくりだ・・

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ほかにも尾道、大山が舞台になり、いずれも好きな土地なのでそこは嬉しい。そういえば、尾道に「パン屋航路」というパン屋さんがあったことも思い出した。語呂合わせだけでなくなかなかおしゃれで実力もあって人気のお店みたいだった。

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元気ばかりで疎んじられる水谷という役に小池朝雄氏。「現代やくざ 血桜三兄弟」*1での不死身みたいなヒットマン役の印象が強くてこれはびっくりした。

 

そうそう、この映画の主人公謙作の悩みっぱなしの有様にはあきれ半分だったのだが、同じく志賀直哉の小説を原作にしたNHKドラマ「流行感冒」は、トピックが時宜にかなっていてとても面白く、神経質な主人公をかっこのいい本木雅弘を使ってちょっと戯画的に描く演出も優れていてとても楽しめた。そして、そのことを思い出し、「流行感冒」の志賀直哉なんだから、主人公が悩み続けてもむべなるかな、という気分になった。

 

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もう一本観た「それから」。

韓国のロメールと評判のホン・サンス監督の「それから」が話題になり、最後の方に漱石とのからみもとか書いてあったもので興味を持っているのだけど、その前にと観てみた。森田芳光監督、「の・ようなもの」「家族ゲーム」などは公開当時楽しんできたのだけど、これはどうなのだろうかと思って観ないままにきていた。後年になってよい評判もきいて観たのだが、着物や建物などの美術は楽しめたけれど、とにもかくにも松田優作演じる高等遊民の代介が小林薫演じる友人平岡に譲ってしまった女性藤谷美和子のことを想い決断に至るまでの過程を描いたもので、松田優作演じる主人公のはっきりしない感じは、今の松田龍平の魅力にも通じるものがある気はしたが、ずっとそれでちょっと観ていて我慢大会みたいな側面も。彼の兄の実業家役をしていたのが中村嘉葎雄氏。ずっと若き日の時代劇で調子のいい弟役みたいなもの*2を観てきたものだから少し驚く。でも、その片鱗もあるようなとりあえずの元気で乗り切るような性格の登場人物でもある。代介の父を演じていたのは笠智衆。笠さんと優作さんが親子か、という面白みはあったのだけど、笠さんが気難しいところのある資産家という風にどうしてもみえない。

原作は確か読んでいてこんなに退屈しなかった気がするのだけどなあ。だけど、この映画、第59回キネマ旬報ベストテンの第一位。私の体力資質不足でもう一つに感じたのかな・・

本宅のロケで使っていた鎌倉の旧華頂宮邸というのは美しかった。

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代介の姪っ子を演じた森尾由美、なんだか元気な友人を演じたイッセー尾形、縁談の相手の美保純は意外な感じで面白かった。