おらおらでひとりいぐも

 

この作品が芥川賞を獲った時、家庭生活をまじめに営んできたものの一人暮らしになったら大きな声では言い難いが開放感も覚えてしまった老婦人の話という紹介をきいて妙に心惹かれるものがあった上に田中裕子主演で沖田修一監督が映画化されたということで、きっと自分の好きな世界であるに違いないと読むことにした。

主人公は70代で自分よりは一回りちょっと年上だが、桃子さんという若やいで聞こえる名前、自由な思想、そしてかわいらしいイラスト効果もあるのか自分とかけ離れた話と全く感じず読み進む。

子育て終えて家族を看取った後、もう社会からは何も期待されていないというような心地になる部分、神経痛の話、子どもとの関係、などなど自分とイコールではないけれど共感できるエピソードがうまく織り込まれ深いところに誘われる。桃子さんが経験したけど自分はまだ未経験の痛みについては先輩の経験談に怯えている自分もいる。しかしながらそこからの桃子さんの境地が理解できるし桃子さんの意気でいこうと思ったりしている。

面白みにあふれているのに人間が生きていく根幹を揺さぶるこの作品、町田康が解説を書いているのにも頷く。彼の作品もそういう世界に存在しているから。

タイトルからしてそうなんだが東北弁が良きリズムになっている。感傷を伴わないこころの記録にうってつけである。