大阪

 

 社会学者の岸政彦さんと作家の柴崎友香さんが交互に大阪テーマでエッセイを書かれているもの。刊行された時朝日新聞対談が載っていてそこでも語られているのだが、大阪の通天閣だとかこてこてだとかのイメージ、大阪人のサービス精神からさらにそれをなぞり増幅させ大げさな語りになったりしがちだけど、そういうものから離れた大阪の本。

柴崎さんは1973年に大阪に生まれ、2005年に東京に移動されるまで大阪で過ごされていて住んでおられたころの大阪の風景の描写が多く、岸さんは1987年に大学進学で大阪に来られ、大学の時の経験~日常の中で社会学を意識させられるような事柄を主に書かれている。

朝日新聞の対談には柴崎さんの発言として

同じ時期に同じ場所にいた人がそれぞれ書くだけで、街というものが立ち上がってくるというか、見えてくるものがあると思います。

と書かれていて、この本の読者も読後twitterなどで思い出を書くことでまたどんどん浮かび上がってくる風景というものがあるという。例として

たとえば、私の年代の女性なら、梅田(大阪市北区)のフローズンヨーグルトパフェの店「ミルクの旅」なんか話のきっかけにしたらおもしろそう。

 とおっしゃっているのが目に留まり、購読のきっかけになった。そう、皆が語る立派な老舗でなくその時代の街の風景を映す何かが柴崎さんのエッセイにはあふれている。たとえば、関西の深夜に放映していた「CINEMAだいすき」(↓こんな番組)とか。

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こういう形の街語り、私はとても好みで、以前HPで掲示板を置いていた時出てくる70年代の京都の河原町やなくなってしまった店の話など本当に楽しかった。複数の人の心の中に生きている風景。それを妙にノスタルジックに語るのでなく、記録文学的に淡々と話し風景が立体になっていく楽しさ。

岸さんの方は、柔らかい口調なのにどきっとするほど突き刺さる、面白いエッセイだった。一番はっとしたのは「あそこらへん、あれやろ」というタイトルの文章。日常の中の悪意のないつもりの毒。地域差別の助長。形を変えたこういういい方に自分もぞっとすることもあるのだけど、じゃあ翻って自分はえらそうなこといえた人間か?とヒヤッとさせられたりもする。

岸さんの「再開発とガールズバー」というエッセイも面白かった。地域を守るのはずっとそこに住んでいた人たちとは限らない、そのエリアが好きという気持ちで越してきた住民の意識がよりよい地域づくりをすることもあるということ。自分も実感しているなあ。