香華

 

80年代有吉佐和子さんの急死とその直前のTV番組「笑っていいとも!」出演について世間で珍奇のような視線で語られていることに対して橋本治さんが抗議を書いておられる*1のに触発されて何冊か有吉さんの本を読んだ。

この「香華」もその時読んだつもりなのだが、芸者さんの話ということと、しっかり人間とちゃっかり人間の二人の対照的な女性が出てきて・・ということで、私の頭の中でどうも有吉さんの別の作品「芝桜」とごっちゃになって記憶されていた模様。(「香華」の親子のくされ縁みたいな話も覚えているので、両方読んでいるはず。)自分の覚えている面白エピソード(ちゃっかりした方の人間が死んだ金魚を植木のこやしにして嬉々としているところ)が出てこないなと思ったら、どうもその話は「芝桜」に出てきたようだ。でも、そういうキャラクターは、この映画で乙羽信子演じる「香華」のお母さんに重なるところがある。現世的で、思うように生きる。

80年代に原作に触れたときは破天荒な自分の母に重ね、迷惑をかけられる側としてお母さんのいい加減さにあきれたりしていたのだけど、映画になったこの作品を今観て、お母さんめちゃくちゃで酷いけれど、捨てきれない変な愛嬌、魅力があるなあとつくづく感じた。乙羽信子の演技力も貢献しているのだろうな。

そして迷惑をかけられる側の娘 岡田茉莉子!今までちょっとキツいかなと思うこともあったのだが、役にぴったりで最高であった。若い時分から老齢期に至るまで見事に演じきっている。

有吉さんとも縁の深い和歌山の旧家からのストーリーということで「紀ノ川」*2ともイメージが重なるのだが、あちらは映画しか観てないので映画同士の比較をすると、「紀ノ川」よりずっとテンポがいい。木下惠介監督の力量か、前後編の長い話なのにちっとも退屈しない。確か橋本治さんが有吉文学は少女漫画のように楽しいから読んでみてとおっしゃってたと思うのだけど、そのことも思い出すような作品だった。

終盤、岡田茉莉子と関係の深い軍人が戦犯になりというようなくだりもあるのだが、少し前に観た映画「東京裁判」などの影響で、80年代に原作を読んだ時よりはそこの部分への関心も深まっている。

 

*1:こちらの記事参照 丁寧に紹介されている

*2:紀の川 - 日常整理日誌