コルドリエ博士の遺言

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先日ルノワール版の「どん底」の、原作ではそこまで表現されていない、「持ってけドロボー」的な生き方の男爵*1いいですね、とふや町映画タウンで話をしていたら、清水宏の「小原庄助さん」*2に影響を与えているでしょうねといわれ、大好きで追っかけている清水宏監督の世界とジャン・ルノワールの世界のつながりを初めて意識。確かに柔らかくてほのかなユーモアの漂う世界は相通じるものがあるなあ、もっとルノワール監督の作品みなきゃなという気持ちに。

それで観たのがこのルノワール版「ジギルとハイド」である「コルドリエ博士の遺言」。テレビ局の監督の様子からスタートする新しさカジュアルさ。出てくるのは凶悪事件なんだけどさらさらさらっと描いてみせる腕。ハイド的なものに変身するコルドリエのぶれない友人が話を引っ張っていて観やすい。

精神分析的な思想も底に流れているが、コルドリエのライバルの精神分析医には冷たくあしらわれる皮肉。分析医のオフィスがとてもそれっぽく面白い。

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ハイドになった時のジャン=ルイ・バローの様子の変わり方は凄い。和田誠さんとの対談集「たかが映画じゃないか」の中で山田宏一さんが「やたら凶暴で狂った映画」なんておっしゃってる。私には墨でさらさらっと描いた大人の漫画のような風合いにも感じられた作品。

*1:演じていたのはルイ・ジューベ。 中野翠さんも著書「コラムニストになりたかった」の中で1970年代フィルムセンターであった1930年代のヨーロッパ映画の回顧上映で彼に出会い、シビれたと書いておられたし、「剣戟王 嵐寛壽郎」の中で丸根賛太郎監督の来栖重兵衛というペンネームは彼の名前からとあった。

*2:小原庄助さん - 日常整理日誌