大好きなアニエス・ヴァルダが、ずいぶん年の離れた若い写真家JRと旅をし、行先で出会った人たちの顔写真をとり、話をきき、大きく焼いた写真を張り出すことでその人たちの人生と邂逅していくドキュメンタリー。いろんな場所で、たとえばご先祖のはなしとか、写真の対象のはなしをじっくりきいて、まるでNHKの長寿番組「鶴瓶の家族に乾杯」をおしゃれにしたみたいな空気になっていく。男の世界である港湾労働者の妻に関心をもって寄り添うアニエスの姿が頼もしかった。
2017年の映画だからアニエスは87〜88歳くらい。自分の父と年齢が近いもので、こんな階段登れるのかな、とか、あ、この場面は車椅子だとか、そこについては特に触れてなくても体力的な面にも注目してしまう。気丈に振舞ってるけど楽じゃない時もあったと思う。衰えゆく眼についてはさらっと説明があった。内心はともかくそれを自然に受け入れていこうと落ち着いて見えるアニエスの姿は「落穂拾い」の時から一貫している。
同行のJRは決してサングラスを外さない。アニエスはグラスの奥に踏み込みたい。年寄りに優しい彼のことを知るため彼の祖母をも訪ねていったりもするけれど、「家族に乾杯」的でなく、もっと表面的で穏やかなひとときとなってしまう。
若いとき、やはりサングラスを絶対外さないゴダールのグラスを外した写真を撮ったことがあるアニエス。その写真と共に若き日の思い出を語り、「はなればなれに」で若い登場人物が走り回ったパロディー映像をルーブルで撮り(良い場面)、ゴダールに会いに行くが。。という展開。
ラストのゴダール訪問のシーンで見せたアニエスの情動にひきつけられた。いつも相手をみつめ、それを落ち着いて理知的にカメラから伝えているようにみえるアニエスの意外な姿。この作品のひとつのテーマである年齢ということと関係があるのかな。私も最近、遠方の友人とこのあと何回会えるだろうと意識してしまうことは多く、自らの思いがけぬ大げさな心の動きに驚くことがある。
この映画のアニエスの姿をみていて、人生思うようにいかないこともあるけどさ、でもとりあえず一度きりの人生、自分を持って主張して生きていこうよ、という風な気分にもなった。オープニングのアニメーションから洒落ている映画、やはりさすがと思う。
2019年に亡くなられたアニエス。ギリギリまでお元気でおられたらしく、亡くなられたことを驚く声が多かったようだ。2017年のこの映画よりあとに発表している作品「アニエスによるヴァルダ」がまだあり、京都では一旦公開終了しているけど機会があればそちらも観たいな。
↓岩波ホールでは明日から上映あるようだ。
【アニエス・ヴァルダ傑作セレクション】
— 岩波ホール【公式】 (@iwanami_hall) 2020年7月24日
明日7/25(土)からは、以下のタイムテーブルになります。
10:30~「落穂拾い」
13:30~「アニエスによるヴァルダ」
16:30~「落穂拾い」
「アニエスによるヴァルダ」は、60余年のキャリアを本人が語る集大成的な作品です。
皆様のご来場、お待ちしております。
大好きな女優、安藤玉恵さんのtweetにもトークショー開催の情報とヴァルダお好きということが書かれていて興味を持っていたが、↓にそのときのことがまとめられている。