80年代から90年代にかけての韓国映画の第三の黄金時代の話題をシネ・ヌーヴォーのtwitter投稿↓で読んで
<シネ・ヌーヴォ前史(35)>
— シネ・ヌーヴォ (@_cinenouveau_) 2020年5月30日
大阪で初の「韓国映画祭」を開催。イ・チャンホ作品以外は、まだ見ぬ韓国映画とあって詳しい四方田犬彦さんに相談し、また大阪外大朝鮮語科の青木、野崎、藤井さんらの協力で実現の運びとなった。だが、単なる映画ファンに過ぎなかった僕たちには大きなハードルがあった。 pic.twitter.com/H8rVRYcVaE
したところ、以下の3つの映画のことを話しかけてくださった方がいらして、観てみた。すべてVHSにて。
まずは、 84年「鯨とり」
モテない大学生(アラレちゃん眼鏡、若い頃の大江千里風。ニューミュージックのトップシンガー、キム・スチョルという人らしい。)、放浪者、売春宿に売られた失語症の娘の三人がロードムービー。物語の最初の方で大学生が失意のはてに「鯨をとる」という夢を語るのだけど、それは75年の有名な韓国映画「馬鹿たちの行進」で、鯨を捕まえに行こうとした登場人物の姿が「四・一九革命の理想が、現実の中で挫折してしまったことを象徴的に描いたもの」であり、「鯨捕り」という主題歌も使われていることと密接に関係があるらしい。「馬鹿たちの行進」のあらすじをみていると、主人公が哲学科の学生というところも共通している。
そんな切なさもベースに、「鯨とり」、なかなかかわいらしい話だった。学生はとことん青臭くて愛すべき感じだし、アン・ソンギ演じる放浪者がもうえらく魅力的で。アン・ソンギ、韓国のスターときいているが、ちょっと日本でいえば役所広司的な魅力を感じる。出るものによって表情も違っているし*1、でもものすごく人を惹きつけるものがあって。「勧進帳」的な展開も含まれて楽しませる。
二作目は92年「われらの歪んだ英雄」。
こちらはソウルの名門校から田舎の小学校に転居してきた主人公が、転校先で優等生としてまつりあげられている万年級長の欺瞞に気づき抗するが・・というストーリー。ヨーロッパでアジア文学の最高作と絶賛されたイ・ムニョルの原作をアジア映画界の新鋭パク・ジョンウォンが、甘いノスタルジーのみに走ることなく、現代をしっかりと見据えた視点で描ききった傑作である
とビデオジャケットに書かれているが、その通りで、昔話としてでなく、アイヒマンの話を聞いた時のように今の自分に突き刺さった。正しいか正しくないかの議論を「正論」という言葉で片づけ、空気で判断することが是としてやっていくあり方への批判。それを、教室での理不尽な出来事として見やすく作ってあるところも見る人の心に広く届くように思う。教室ではそれこそ空気を読まなく、とんちんかんで「何をいってるんだ?」みたいな扱いを受けている子が、太宰治の「人間失格」で、主人公の盛った行動を見抜いた少年のように、見通す力も持っていたという表現にも国を超えた普遍性も感じた。
もう一本みたのは、87年の「旅人は休まない」。こちらはソウルに生きる公務員や財閥の看護師がごく現代的なストレスフルな生活の中から魂の旅へ導かれるような物語。こうなればスカっとするなんていう観客の甘い予測は裏切りつつ平温で話が進むところに好感を持つ。具体的でリアルな表現の部分と神秘的な場面が交錯しなんともいえない余韻を残す。
1987年東京国際映画祭 国際批評家連盟賞
1988年ベルリン映画祭カリガリ賞受賞