讃歌

 

新藤兼人監督版「春琴抄」。ちょうど直前に見た神代版「鍵」*1でモダンでクールな娘を演じておられた渡辺督子さんが主演。百恵ちゃん友和バージョン*2とかだと民主主義社会的な視点で理解しうる美しい物語にしあげてあったのが、こちらでは丁稚は丁稚という階級差をくっきり際立たしてだからこその倒錯愛を描いていて、また物語の構成も春琴たちの側に仕えていた老女の住んでいる老人ホームに新藤監督が訪ねていって話をきくという、現代とクロスさせる独自の面白さがあった。監督の「三文役者」*3もちょっとそういうところがあったなあ。

伊藤大輔監督の「春琴物語」*4でも東山千栄子さんの美しい語り言葉で伝聞の物語として描かれていたが、原作がどういう形になっているのかみてみると、この「讃歌」がまずお墓を訪ねていきいろいろ調べるという形式は原作を生かしているように思った。

クライマックスシーンでのATG作品らしい奇抜なセットも目をひく。奇抜ながらもあの表現はなかなか卓越していて、みるものへの配慮もある。

春琴に横恋慕するぼんぼん原田大二郎がなかなかよい。原田さん、「裸の十九才」*5でも印象的だったけど、ピュアな魅力を新藤監督に認められていたのだろうな。彼の別荘のプール開きでの太鼓持ちのひとなども面白い。ATGだし多分予算少ない中で豪奢とはいかないけど阪神間ののんびりした空気がうまく表現されているように感じた。この作品にも春琴が鯛のお刺身を好む話が出てきたが、昨年NHKで放映していたドラマ「平成細雪」でも、鯛のお刺身へのこだわりが出てきた。谷崎にとって鯛のお刺身というのは関西のお嬢様こだわっている味覚としてうってつけのものなのかな・・上質でまろやかな・・

ラスト、乙羽信子が三味線を弾くシーンのよき迫力、乙羽さんは新藤監督のミューズだなあと実感した。

 

みたのはvhs版