日本の路地を旅する

著者の言う「路地」とは、中上健次の描いてきた路地、つまり被差別部落のことである。同じ微妙な気持ちを共有している大阪の路地出身の著者だからこそできた、全国の路地のあとを訪ねその歴史を辿っていく本。路地には「寝た子を起こすな」という考え、いや、そこには歴史があったのだから記すべき、という二つの考え方があり、著者は後者の考え方であるが、前者の考えをもつ土地の歴史を知るのは至難である。

少し前にNHKETV特集の「原爆と沈黙〜長崎浦上の受難〜」という番組をみたが、その時、幕府側の目付け役としての被差別部落の役割というのもはじめて知ったのだけど、自分が不勉強なだけで、黒澤明の映画「用心棒」に出てくる「番太の半助」はそういう役割の人物だということをこの本で知った。支配者が統制をきかせるためにうまくコントロールしている感も持つ。

またひとくちに被差別民といっても、ひとくちではないこと、それもざっくりとではあるが頭に入った。沖縄のエイサーのもととなった京太郎という放浪芸のこともとても関心を持った。馬舞者という漫才のような出し物と漫才「いつもここから」のオートバイの芸の類似ーかっての路上の芸がこういう形で受け継がれていること。

商売第一、商売のためならイデオロギーなど関係なし、という著者の父を描いたという「路地の子」にもとても興味を持った。

日本の路地を旅する (文春文庫)

日本の路地を旅する (文春文庫)