原節子の真実

原節子や小津監督の話は伝説のようにそれなりに流布されていると思うけれど、この本はそこにあえてものすごい取材力でもって挑んだ渾身の作品だった。同じ著者による映画「夜の蝶」のモデル上羽秀さんの伝記「おそめ」*1も、対象への近づき方が読者を満足させるものだったけれど、この本でも、今まで聞いていた原さんの話(=小津安二郎の紀子と同一視するような)とは一線を画したものでとても読んでいておもしろかった。また義理の兄、熊谷監督のこと。熊谷監督の「指導物語」*2を先日みて、「指導物語」自体は戦争に向かっていく時局もあって銃後の守りという話であっても、割合視野の広さを感じたのだったけれど、その後、国粋主義団体に熱心になられた話を読み、どう咀嚼したらよいのか、もう少し詳しく知りたいと思っていたそのあたりもかなり踏み込んで書いてあった。(後述する「新しき土」の宣伝でヨーロッパに行ったときのコンプレックス的な気分の影響という話も興味深かった。)
またびっくりしたのは映画「新しき土」*3の誕生秘話。背後に隠された日独同盟の意図。いわれてみれば、合点がいく。ドイツ側監督と日本側の監督だった伊丹万作との齟齬や、また伊丹万作の戦争責任に関する文章などもますます複雑に自分に迫ってくる。
戦後の食糧難の話、進駐軍とのかかわり、それをいさぎよくおもわれなかった原さんは進駐軍の残飯を買うような事態までおこったこと。片や進駐軍をもてなす女優さんも多数おり、それを楽し気に本にかいてあったり。。今までひとからげにみていた往年の邦画に色々な陰影を与えてくれる本となった。

原節子の真実

原節子の真実