指導物語

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昭和16年作品。冒頭「往かぬ身はいくぞ援護へまっしぐら」だとか「陸軍省鉄道省検閲済」という文字がものものしく、時代の空気をいきなり浴びる。原節子の義理の兄でもある熊谷久虎監督はビデオに封入された解説にもこの映画を撮ったあと国粋主義思想団体の指導者になってしまったことなども書かれ、またこの映画も国策映画という風にとらえられる向きもあるようだけど(アテネ・フランセこちらの解説参照)私にはこの映画がこの時代の精一杯の表現のように思われ、ただの国策映画には見えなかった。
丸山定夫演じる鉄道員がもう必死の情熱で戦線で軍用列車を運転する機関員特業と呼ばれる兵をまともに機関車を運転できるよう要員に鍛え上げる物語で、その部分はもうほほえましいばかりなのだけど、青春時代には思想上の歴史もあったと友人からの手紙で紹介される学士が、思いを振り払うように軍での生活をし、そこに送られてきたドイツ語の原書(「戦没学生の書簡集」「ルーマニア日記」「アルト・ハイデルベルヒ」と読み上げられる)が、中隊長の許可をとらなきゃいけないし、他に勉強しなきゃいけないことがあるだろうからと班長にとりあげられる本当に切ないシーンや、いよいよ軍地に赴く戦士たちを見送る母親や原節子演じる丸山定夫の娘たちのシーンは、お国のためと喜んで送らなければならないけれど表面上そうしているけれど本当はつらいという感じがとてもにじみ出ていて、時代の空気がものすごく伝わって涙がこぼれて仕方がなかった。
ただしんどいだけの映画でなく、鉄道員同士が自分の育てている兵士をとてもかわいがり、競い合う気持ちをもっている表現などがユーモラスでもあり好ましく、そんな一コマがあるから余計に心に響くのだと思う。

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