晩年

太宰の処女作品集ということで、コラージュみたいにして難解に仕上げてあるものもあるけれど、太宰の文章や構成の確かさに触れ、軟弱の化身みたいなイメージをもたれているけれど、なかなかどうして、土台がしっかりしている人だったんだとつくづく感じ入る。
好きだった作品「ロマネスク」。時代物風で三人の男が「三人吉三」のように出会う話。市川崑の「股旅」*1町田康の「告白」のような、ストイックなロマン。それがとても簡潔に描かれている。「嘘の三郎」のところに書かれている、実家にお金の無心をする時の文章テクニックなどおおなるほど!と思ってしまう。間違いなく才能だ!
津軽*2にも引用のあった「思い出」は太宰の生家に行ったところの自分にはすごく楽しい読み物だった。抒情もとてもいい。
道化の華」の、学生同士だからこその、甘ったるくもみえるだろうけれど、この年代ならではの感情の表現も好きだった。
「彼は昔の彼ならず」は、敷金を払ってくれない店子とのストーリー。「なんでそうなるんだ。。それで?」という感じもあるのだけど、そのずぶずぶとした関係を描写する筆がうまい。
とにかくいろいろな種類の作品がとりまざっており、この時点の遺書としてそれまで書いたものを集めたのがこれなんだなあという感じが味わえた。

好きだった表現

ことし落第ときまった。それでも試験は受けるのである。甲斐ない努力の美しさ。われはその美に心ひかれた。

(「逆行」の中の「盗賊」という章のはじまり)

ひとと始めて知り合ったときのあの浮気に似たときめきが、ふたりを気張らせ、無智な雄弁によってもっともっとおのれを相手に知らせたいというようなじれったさを僕たちはお互いに感じ合っていたようである。

(「彼は昔の彼ならず」より)

「始めて」は今だったら「初めて」と表現される?と思ったけれど辞書には両方載っており、この使い分けは慣用的なものとか・・とにかく、このはりきってしまう感じはなんだかわかる。

晩年 (新潮文庫)

晩年 (新潮文庫)