グレイ・フォックス

ビデオパッケージより

西部史史上名高き紳士強盗“グレイフォックス”として“手を上げろ!”の名ゼリフと共にその名を馳せたビル・マイナーの実話に基づく映画化。

だいたい“手を上げろ!”という言葉が無用の殺生を避けるため、ということにこの映画をみてはじめて気がつく。
そして、パッケージの解説のこの文言は勇ましい感じだけれど、つまりはビル・マイナーが服役を終え出獄したら時代はすっかり変わり、駅馬車の時代は終わっていて、妹夫婦に紹介された仕事もぱっとした気分になれず、列車強盗の映画をみてふと火がついて・・という哀感がベースにある渋い作品。そして渋すぎて傾聴するのみというのでなく、ちゃんとおもしろい。
ビル・マイナーを演じたリチャード・ファーンズワースという役者さんはリンチの「ストレート・ストーリー」でトラクターを運転していたあのおじいさんらしいが、この時代はあそこまで牧歌的な感じでなく(でも、あの役もやはり昔に熱い事情が何かあったのだなという話だし、この俳優さんがそういうものを持っているからこそのキャスティングなんだろうな)紳士的で緻密だけど眼光鋭く、小さくはまとまらないものを持っており、日本でいえば山崎努氏あたりが演じるような雰囲気を持ち合わせておられる。
ところどころアイリッシュの音楽*1などがかかるけれどカナダ(彼はカナダ史上はじめても列車強盗)の自然をゆっくり見せる沈黙の時間も結構あり、カナダの町で、表向き炭鉱夫として生き、その雰囲気から地域の人にも愛されている暮らしぶりが地に足付いてリアルに感じられるし、変な修飾がないところが本当に良い。そしてリアルにばかり振れすぎて、画面が真っ黒っていうのでなく、映画からのプレゼントのようなよいシーンもあり、楽しめた。
なんといってもこのリチャード・ファーンズワースのいい顔でこの映画は成り立っている。

ひとつの壁にぶちあたったりして不本意な現状に身を置かなきゃいけなくなっても熱いものは持ち続けている・・という、「砂漠の流れ者*2ポール・ニューマンの出てくる小品*3のような、枯れ切ってはいない気骨のある男の物語だ。こういう種類の話好きかも。

ふや町映画タウンの☆☆(けっこうおすすめ)作品。

映画com

*1:チーフダンスというグループのもの これがなかなか良い。

*2:http://d.hatena.ne.jp/ponyman/20120920/1348126825

*3:ノーバディーズ・フール」や「ハリー&サン」など