捕われた心

佳作の多いワイントローブ・ブリティッシュ・ライブラリーのシリーズの一本。バジル・ディアデンという監督もこの映画の事もまるで知らず、このシリーズのものであるからという理由で借りてみたが裏切られなかった。冒頭の「イーリング・スタジオ」の文字に英国紳士が目くばせしているようなイーリングタッチの映画*1を思い出しもううれしくなる。
ドイツ軍のイギリス人捕虜収容所に収容されている人々の群像劇。本国でそれぞれの人生を送って来た人たちがその生活の延長を生きているという風に描かれているのが魅力的。ひとりの英雄を描いたりする話でなく、小さな気持ちの集まりが・・という筋立てにとても好感を持つ。ほどよいユーモアも随所に盛り込まれ観た後小さな灯が心にともるような作品。

捕われた心 [VHS]

捕われた心 [VHS]

*1:こちらによるとイーリング・コメディやイーリング調のイギリス喜劇として「マダムと泥棒」や「謎の要人悠々逃亡」が挙げられている。またこちらも参考になる。

バクスター!

これも珠玉の作品の多いワイントローブ・ブリティッシュ・ライブラリーシリーズ。
ふや町映画タウンのおすすめ☆☆ (実は、けっこう・・おすすめ)作品。とてもよかった。

心がつぶれてしまいそうな時、どうにかしたいのにどうにもならない感じ、それをはたでみていてもできることには限界があると思ってしまう気持ち、なんだかそういうことが、とても切実に描かれていて胸が詰まる。だけど、陰惨な感じではない。
現実は苦い事もあり、楽しい思い出がより自分を追い込むこともあるけれど、その中で安直な答えが用意されるのでなくまず悩んでそこからどうにかするしかないというメッセージがおためごかしでなくて心地いい。

家庭に恵まれていないバクスター少年にとって心理的な面のサポートをすることばの教室の先生を演じたのは「摩天楼」*1をみたとき経歴を調べてその数奇な人生に驚いたパトリシア・ニールかな・・とてもコクと味のある演技。甘い言い方をしないけれど、実のある感じでとてもよかった。彼女が人生から得てきたことが画面ににじみ出ているように思った。
そして、少年にとって疑似家族のようなあたたかさを与えてくれた女性はブリット・エクランドという女優さんだろうか・・ボンド・ガールだったり、いろいろな人と浮名をながされたようだけど、その華やかさがとてもチャーミングだった。
彼女とフランス人のボーイフレンドとともに、少年が打ち解けるシーンで出てきたのが
アステアの「I won't dance」(「ロバータ」より)

ディートリッヒの「Falling in love again」(「嘆きの天使」より)

「ブロードウェイによろしく」

などのナンバー。
どういう人たちかというのをうまく表現しているし、映画の深みになっていていい感じ。

少年が少しだけ交流する少女の部屋のモビール、飾ってあるハンフリー・ボガードミック・ジャガー、レッドフォード、W.C.フィールズ(チャップリンと並び称された喜劇王らしい)と並んで猫の写真、飼っている犬のフェルドマンという名前(きっと意味があるだろうにわからないのが残念。)、ちらっときいているジェリー・ルイスの番組、建築系の父の趣味と思われる聖堂のような踊り場、前述の言語の教室の先生の部屋の飾りなど空間や音での表現も心に残る。

バクスター! [VHS]

バクスター! [VHS]

思春期の感情

ふや町映画タウンのおすすめ度 ☆☆ (実は、けっこう・・おすすめ)

フナイから出ていた「ワイントローブ・ブリティッシュ・ライブラリー」のvol.4
このシリーズ良品多いイメージ。「サミー南へ行く」*1なんかもとてもよかった。(ふや町映画タウンで確認したところ、「絶壁の彼方に」*2ケン・ラッセルの「フレンチ・ドレッシング」もこのシリーズだそうだ。)

学校のオーケストラにまつわる話で、演奏しているシーンも多く、自然と半ミュージカルのようになっている。
BizetのFarandoleがかかるシーン、音楽と画面がぴったりあって気持ちいい。

テクニカラーの画面もいいし、ストーリーもユーモアがありつつも毅然としていてイギリスらしい風味。オーケストラの持つ群像劇的色彩もいい。主役のジョン・ミルズも達者。楽しめた。

思春期の感情 [VHS]

思春期の感情 [VHS]

  • 発売日: 1989/09/15
  • メディア: VHS

サミー南へ行く

ふや町映画タウンのおすすめ☆☆☆
生きていくとは、自立とはということをイギリス流のくさくない演出でさらっと、でも骨太に描いたよい作品だった。すすめてもらわなければ出会えなかったと思う。
常識的すぎる私なら違った選択をしただろうなというようなところの展開もとてもよかった。主人公の子役に力もあって話にひきつけられるし退屈しない。心の中に登場人物が生きている。いろいろな場所で白人と現地の人間の軋轢や社会のひずみみたいなものをリアルに感じさせるのだけどその描き方がどっちの側にたつという感じでもなく、比較的現実的で、その中でどう生きていくかというタッチなのがすごくいい。
監督は「マダムと泥棒」(コーエン兄弟の「レディ・キラーズ*1のオリジナル)も監督したアレクサンダー・マッケンドリック

ビデオパッケージのイラストはひさうちみちお。こういうぜいたくなコラボレーションうれしい。

サミー南へ行く [VHS]

サミー南へ行く [VHS]

  • 発売日: 1990/02/15
  • メディア: VHS

絶壁の彼方に

三谷幸喜氏の「とび」*1で、ハーバート・ロムという俳優さんの訃報に際し、「マダムと泥棒*2やこの作品の話が書いてあった。特にこの作品は「無数の作品歴の中から、これぞというものを選ぶなら」ということで名前が挙がっている。しかも、DVDになっていない幻の名作とのこと。ふや町映画タウンのおすすめビデオの中にも入っていた。
言葉が通じない独裁国で危機に巻き込まれる恐怖うまく描いている。しかも、なんか自分が選んでその渦中に巻き込まれてしまった負い目とともに。そのあとの首尾はなかなかしっかりしている主人公、やりおるなあという感じ。超利己主義でもあるけれど。
うわさのロムは三谷さんの書いてらっしゃるように「敵か味方かわからない謎の男を、コミカルに、そして珍しく若干ペーソスを交えて」演じていた。

追記:その後DVDも出たようだ。


※2022年冬、「絶壁の彼方に」が、amazon primeで配信され、

twitterでロム氏の話題も出てくる。
「北西戦線爆走機関車」という作品を薦められ観てみる。ちょうどその前、ローレン・バコールがお年を召されてから出演の「マンハッタン・ラプソディ」*3という作品を観て、もっと彼女の映画を観たいと思っていたタイミングでもあった。ロレーン・バコールはお若い時も媚びなくて清冽。活劇的でない汽車の中の会話劇にも味。そしてハーバート・ロムの不気味さ。これも敵か味方かわからない、ハラハラさせる要素があり、物語のキーになる人物だった。政争のさなか、小さい機関車で幼き要人を護衛して進むストーリーだが、機関車の小ささを活かしたストーリーも面白かった。

もう一つハーバート・ロムつながりで観たのが
「ささやきスミス倫敦へ行く」
www.allcinema.net


タイトルほど面白いわけではない。ささやきスミスって探偵、結構ワキが甘くて「ふーん」って感じ。ハーバート・ロムは人形遣いなんかして味がある。ロムを愉しむにはいい作品かも。

 「とび」より