時代劇は死なず!京都太秦の職人たち

 

春日太一さんの時代劇研究本、テレビ時代劇のウェイトが高いので映画時代劇のことを主に知りたい自分は躊躇もしたのだけど、手にとってみたら東映の明朗時代劇→集団時代劇→テレビ時代劇への流れ(子ども時代に好きだった「花山大吉」の項など楽しい)、大映時代劇→勝プロ(最終的に自分の美学を追及しすぎて一般人の理解不能の境地に達してしまう勝さんの話は先日読んだ小説「国宝」*1の主人公を彷彿とさせる。)、大映倒産後、京都撮影所のクオリティに着眼した市川崑によって「映像京都」の設立(「紋次郎」系列)、松竹下賀茂撮影所をルーツとする「京都映画」(「必殺」系列)など、一口に時代劇といっても撮る考え方がまるで違うことなどを知った。

予算、時間度外視の勝新のやり方に周りがついていけなくなる話が続く中、先日亡くなられた井上昭監督が肩を持っておられたのも印象的。

「必殺」シリーズも、80年代上京して周りが三田村邦彦などに夢中になっているのを、家族が朝日放送に勤めていた自分は、「『必殺』ってこんなに人気があるんだ・・」と思ってみたりしていたが、それはメジャー化したあとの姿であってそもそもの始まりは大阪からの反抗の気持ちで作られた前衛的なドラマ「お荷物小荷物」のプロデューサー山内久司氏が生み出した、アンチモラルへの挑戦、現代劇のつもりでの作劇など挑戦的な作品であったことを知る。

東映太秦映画村のくだりは、東映の大変な労働条件に改めて驚いたが、ちょうど今年の前半に放映していた朝ドラ「カムカムエヴリバディ」に映画村ができるあたりの描写があったな、主人公の彼氏だった殺陣のプロを目指していた男がお化け屋敷の出演にくさっていたなあと膨らませながら読むことができた。

暗戦 デッドエンド

 

「ザ・ミッション 非情の掟」*1(1999)の興奮冷めやらず同じくジョニー・トー監督の「暗戦」(こちらも1999)を。スタイリッシュさ✕面白み✕後口で本当に楽しませてもらった。クセになる。

音楽の感じや警察もので真剣勝負にはさみこまれるユーモアといった構造は時代ゆえか「踊る大捜査線」と同じ潮流も感じたけれど、お祭りぽくなり盛り込みすぎで散漫になってしまった「踊る〜」の映画版より何倍も出来がよい。アンディ・ラウ演じる犯人と警察交渉人のコンゲームの面白さ、双方のつらさ、心情、仕事の喜び、むなしさ、キュンとする感じなどさまざまな気持ちをしっかり、しかも冗長になることなく味わえ本当に満足。

「ザ・ミッション」にも出ていた近藤芳正さんをちょっと太らせたようなラム・シュウがこちらにも。いい味。

ふや町映画タウンでもきいたけれど、香港映画、こうして出てくる人の顔を覚えていくと加速度的に楽しめるものらしい。確かに邦画もそうだもんな。もっとみてもっと楽しみたい。

 

※追記 2022年12月 やはりジョニー・トー監督、アンディ・ラウ主演の「ニーディング・ユー」(2000)を鑑賞。こちらはラブコメ。2000年当時の香港の会社が舞台で、日本のラブコメをみているみたいにその当時の社会のさまがわざわざじゃないけど一番リアルに味わえるのがとても楽しい。アンディ・ラウ、コメディぽい演技も憂い顔もデキる男風もイケる。クールな表情なのに要領が悪いヒロインにも好感。恋の手ほどきをイアホンの遠隔操作で、というところ何かでみたことあるけどどの映画だったかな。。毎回堂々と再現があるので香港映画の当たり前として観ている。

「暗線」でもみかけていたラム・シュウや「暗線」の使えないが妙な魅力のある上司も登場。ジョニー・トーチームのものもっと観たくなる。

中国の経済特区の話が出てきたりして、俄に関心を持つ。違う国のことを知るには映画が一番。

 

ハッスル

 

1975年 ロバート・アルドリッチ監督作品。「ロンゲスト・ヤード*1(1974)がとても良くて同じくバート・レイノルズ×アルドリッチ監督のこちらも鑑賞。カトリーヌ・ドヌーヴバート・レイノルズ演じる刑事の愛人役。レイノルズは、すごいロマンチストで「白鯨」やら「男と女」*2カサブランカ」、コール・ポーターなんかが大好き=古き良きといわれるような時代への憧憬を持っているが、自分自身もドヌーヴとの付き合いでは宙ぶらりんとみえるところもあり、理想と70年代的現実の間でもやもやしている。強大な構造の中での彼は彼の思ったように生きることができるのか?という命題をつきつけるところはとても面白い・・が、すっきりしない現状をシニカルに描く作品なのでカタルシス的な部分は少ない。何かもやっとしながら監督が描きたかった気持ちは通じるような、70年代的なやるせなさと捨て置けない妙な余韻は残る作品だった。

70年代のポルノ産業がバート・レイノルズの敵のような形で描かれるが、「ブギー・ナイツ」(1997)ではポルノの帝王みたいな役をしていたなあ。演技派として評価され私も大好きな作品だけど、バート・レイノルズはあまりあの作品を気に入っていなく、その後PTA監督のオファーを受けていないとかも読んだなあ。

「歌行燈」見比べ

衣笠貞之助版(1960)と成瀬巳喜男版(1943)を見比べ。成瀬版を遥か昔に観たこと*1は憶えていたが、衣笠版も初めてのつもりだったけど4年前に観ていた*2。つまり2回ずつの鑑賞。最後まで気が付かない情けなさ。

「晩菊物語」を見比べたとき*3も、大庭監督のリメイク版は歌舞伎の世界がよくわからない人にも受け入れられるようなかみくだくような作り方だなあと思ったのだが、新旧「歌行燈」にもそれを感じた。

伊勢で声がいいからと按摩から謡曲の師匠になって評判をとり天狗になっている男とその娘、そして東京から来た能楽師の跡取りの間の因縁を描いたものだが、衣笠版では派手な出来事が目の前で具体的に表現されそこにいる人間やドラマを描いているのに対し、成瀬版は主人公は「芸」そのものと感じた。成瀬版では芸ができない芸者となった按摩の娘に因縁の能楽師が芸を授けるシーンも本人は正体も明かさずある意味芸術の神のようなものがそれを行っているようにもみえるのが、衣笠版だと色恋の要素が強くなってしまっている。

能楽師が冒頭の按摩との事件のあと、仕方なしに門付けで生計をたてる中で出会うトラブルでも成瀬版の方が「芸」の話になっている。

成瀬版をはじめて観たときも能楽師の先代コンビの面白さにひきつけられてはいたが、今回観て愛弟子を突き放すことになり、表面上はこれでいいんだと装いながらの苦しみが物凄くリアルに感じられその表現に感じ入った。これはこちらが年齢を重ねたおかげだと思う。

若き能楽師を演じたのは成瀬版は花柳章太郎杉村春子が彼の女形をみて表現の勉強をされたと話していたなあと思いながらの鑑賞。衣笠版は市川雷蔵雷蔵の気品はこの作品に合っていたが、話の運び方の方は通俗的風味が強くなりすぎていた。

成瀬監督版はふや町映画タウンのおすすめ☆☆

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ザ・ミッション 非情の掟

 

香港映画探求の続き。こちらもふや町映画タウンのオススメ☆☆で、先日ぱらぱらっと読み返した小林信彦氏の「コラムの逆襲」(2002 新潮社)でも褒めてあり観ることに。(ジョニー・トー監督 1999)

 

 

レストランオーナーの銃撃事件をきっかけに護衛に雇われた五人を描いた映画で、どうやら銃撃シーンのスタイリッシュさでも有名な作品らしいが、もちろんそうなんだが、彼ら及び警護される人間の描写がかっこいい一辺倒でなく人間くさい面白みがあり、「レザボア・ドッグス*1的な魅力がある。でもあくまでも冗長ではない説明ですごく簡潔な表現、にやりとさせられるし、うまい。

香港のジャスコでのシーンがかっこよく撮られていることなどでも有名な映画のよう。

前述の「コラムの逆襲」には、

ぼくは香港の役者さんの顔を知らないので、若い男たちの区別がつかない。一人、宍戸錠みたいな顔(頬が垂れている)の中年男だけは区別がつく。

 

って、私もそんな感じ。多分、それはアンソニー・ウォン

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まあ他の四人もそれぞれ特徴を出してあり、名前はわからなくてもごちゃごちゃになることはなかったが。

アンソニー・ウォンのことを調べると、チャウ・シンチーやン・マンタ目当てで楽しんだ「魔界ドラゴンファイター」(1993)*2にも出ておられたらしい。

 

しかも同じくジョニー・トー監督。ふや町映画タウンのおすすめでもある。二年前も十分楽しんだが、今観たらさらに楽しめそう。

香港映画の門を叩く

行きつけの名作ライブラリー的なVHSレンタル店ふや町映画タウンのおすすめとして香港映画が多数ラインアップされているが、あまり観ていなくて・・・9月に鳥取jig theater で「恋する惑星」を観た*1のをきっかけにちょっとずつ香港映画を観始めている。

 

まずはウォン・カーウァイが脚本担当の「バンパイア・コップ」(1987 ジェフ・ラウ監督)

こち亀」みたいな雰囲気の警察署とバンパイアの闘いなんだけど冒頭香港の街角がドキュメンタリーのように映るのが楽しい。そして、そこからの二人組刑事と乱暴者の対決。。小ネタが盛りだくさんで笑える。終わりになるにつれアクションが大ぶりになってくるけれど、いつも香港映画を観て感心するのは美しいヒロインも容赦なくすごいギャグシーンを演じさせられていること。振り切っている。

バンパイアの親玉は日本軍の亡霊で三宅一生という名の大佐という設定に。

途中導師的な人がバンパイア退治の闘いをみせるが、カンフー映画ぽい動きがかっこいい。でもそれだけでは終わらない。サービスの上にサービスといった気配。こちらはふや町映画タウンのおすすめ度☆。

次に観たのが「バンパイア・コップ」よりオススメ度の高い(☆☆)「ハイリスク」(1995 バリー・ウォン監督)

最初からとてもテンポが良くアクションと笑いの加減もうまくどんどんみせる。あらすじを読んでいる時は複雑そうと思った筋もテンポよくわからせる。すばらしい。

「バンパイア・コップ」でも刑事役だったジャッキー・チュン(紛らわしい芸名・・)が、スタントなしを銘打ってるのに実はジェット・リーをスタントに使っているスター俳優の役。テロリスト×ホテルでの宝石強奪というハリウッド映画っぽい大筋に、件のスタント疑惑をうまくからませ、観ているものが混乱することなく入り込め笑いながらドキドキできるうまさ。

私がこの作品を観るきっかけを作ったのはキャストの中にウー・マの名前があったから。ジャッキー・チェン主演のキャプラの翻案もの「奇蹟」*2でのジャッキーのじいや役や「上海の休日」*3でのおじいちゃん役が味わい深かったのだが、もうこの映画ではアクションありの大活躍。大快哉

そして、ジェット・リー。彼を愛した故人となった友人はこれを観ただろうか・・・とてもいい役。ジャッキー・チュンも情けないスター役とはいえやるときはやる!そしてまたまた女優さんの大活躍。アクションもだし、コミカルにおとしめられるシーンもだし。サービス満点で満足の一本だった。

映画黎明期入門

11/1のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」の18時台、東京国際映画祭2022の「山崎バニラ活弁小絵巻2022」というプログラム*1に日比麻音子アナウンサーが行かれた話が出てきて、そこに登場したのがロスコー・アーバックル(通称デブ君)の名前。かねがね、ふや町映画タウンユーザーの方のtweetに出てきていて気になっていた人だ。

最近ふや町映画タウンのオーナー大森さんがサイレント映画を熱心に観ているなあと思ってはいたけれど自分はなかなか足を踏み込めていなかったのだけど、良いチャンスと関連作品を二つ鑑賞。

 

一つ目は「シネ・ブラボー!」

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この作品は二部に分かれていて、↓映画.comの紹介を引用させてもらうと

第1部はイギリスのフィルム・インステチュート提供のオリジナル・フィルムを日本で20分に編集した活動写真の創世期を語ったもの。ナレーターは小沢昭一、構成は山田宏一、デザインは和田誠、編集は武市プロダクション。第2部は、サイレント映画の醍醐味である喜劇と連続活劇のアンソロジー。製作・編集は「喜劇の黄金時代」「喜劇の王様たち」を製作したロバート・ヤングソン、音楽はジャック・シェインドリンが担当。

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一部の和田誠さんのデザイン、小沢昭一さんのナレーションが嬉しい。(二部ナレーションは三國一朗氏。)特に二部はサイレント時代の映画俳優が多数紹介されちゃんと知っていきたい気持ちに。一部か二部か忘れたけれど、ロスコー・アーバックルも少し出てくる。ただ本当にメドレーで観ているような感じで紹介は断片で一作品ちゃんと観たくなる。「音響 赤塚不二夫」の文字には驚いたが、漫画家とは違う同姓同名の音響の方だった。

二つ目はバスター・キートン傑作集より、ふや町映画タウンのおすすめ印のついている「コニー・アイランド」(1917 監督・脚本ロスコー・アーバックル 21分)の含まれている第5集を。

バスター・キートン傑作集(5) [DVD]

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  • ロスコー・アーバックル
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他には「自動車屋」(1920 監督・脚本ロスコー・アーバックル 15分)と、ロスコー・アーバックルの出てこない「馬鹿息子」(1920 ハーバート・ブラーシェ監督 70分)を収録。

キートンやっぱりいい。あの品のいい顔。

「コニー・アイランド」は妻と海辺に来たアーバックルがしつこい妻を逃れてコニー・アイランドへ。そこで同行したガールフレンドを横取りされたキートンたちと合流。ドタバタの末にアーバックルの女装なども披露されるがそのかわいいこと。またキートンが美しいすまし顔なのに納得のいかない立場になってしまう、それを品のあるポーカーフェイスでなんとかして潜り抜けようとする定石が本当に心地いい。

自動車屋」はキートン&アーバックルが自動車屋兼消防署という場所で繰り広げる騒動だけど、動きがエレガントで流れるようで、落ちてくる人間が走っている自動車にぱさっと納まるなどの動作もきれいに決まって気持ちいいし驚嘆する。この辺日本の古いコメディをみていると高いところでのやりとりなどちょっと動きや撮影がこれからの感じでリアルといえばリアルなんだけど映画の夢からは醒めてしまうところがあるなあと思ったりする。また「シネ・ブラボー」で解説があったけれど、共演する人たちもこの神業的動きにあわせられるよう決まったメンバーだったということだったけれど、「自動車屋」のオーナーなど巻き込まれの表情が最高で作品の楽しさを増している。

「馬鹿息子」は一番の長尺。ドタバタというよりストーリーでみせる話。こちらもやっぱりキートンの品。とんでもない浮世離れなんだけど、人間がかわいらしくて、関西歌舞伎のつっころばし的魅力。

DVD付録の日野康一氏の解説もキートンの芸名の由来がフーディーニと関わっているという話など興味深いものだった。

 

山崎バニラさんもブログ*2喜劇映画研究会/編・発行の『サイレント・コメディ全史 The Complete History of SILENT COMEDY』というにサイレント・コメディのあらゆるスタッフ&キャストが紹介されていて大変参考になったと書いておられるのだけど、ロスコー・アーバックルについても喜劇映画研究会の講演記録がとても参考になる。

www.kigeki-eikenn.com