わが町

 

織田作之助原作。川島雄三監督。1956年。大阪の風景がふんだんに出てくる。

 

冒頭フィリピンで道路建設に携わり帰ってきた主人公役辰巳柳太郎のコテコテで活力に溢れすぎた雰囲気に完走できるか不安を抱いたが、明治から昭和の戦後までを駆け抜けた男の一代記、主人公が年齢を重ねるにつれどんどん馴染んでいく。外地での彼の活躍は彼の生涯のアイデンティティであり、その後の人生のエンジンだから、帰ってきた直後少々ハイになっても当たり前、そしてあの元気さが最後まで観た自分の心に効いてくる。

彼と同じ路地に長年住んでいるのは噺家殿山泰司北林谷栄。主人公と一緒に年を取っていっていい按配。とくに殿山泰司とのやりとりの哀感。身に染みる。

南田洋子が主人公の妻と孫の二役。髷も似合う。

辰巳柳太郎演じているのはワンマンといえばワンマンで周りもそれで苦労したりするのだが、激動の時代を生き抜く活力と憎めないハートや心意気もある人物。大坂志郎とのマラソン対決シーンなども心に残る。なかなか良かった。

 

日活のサイトにロケ地情報。安治川では、朝ドラ「あまちゃん」に出てきたような重装備で潜水も。プラネタリウムの使い方とてもいい。

ロケ地

大阪府大阪市(空心町、大阪ビル附近、天保山桟橋、千日前通り、千日前裏通り、肥後橋附近、大阪城附近、大阪城追手門自動車練習場、御堂筋十合百貨店附近、生国魂神社境内、四ツ橋電気科学館、安治川河口、地下鉄難波駅天王寺警察署前、細工谷堂ヶ芝町)
兵庫県】神戸市(神戸港)【京都府京都市(島原歌舞練場、黒門町

 

 

余命一年、男をかう

吉川トリコさん、ライムスター宇多丸の番組で女子アナウンサーと女芸人が主人公の「夢で逢えたら」が奨められていて読んでみたのが出会い。

 

女子アナウンサーや女芸人に読者や小説の中の人々が勝手に抱いている型を崩していくところに爽快感があり、安易な決着じゃないのに意外な方向ですとんとくる爽快感があった。

 

今回読んだ「余命一年、男をかう」は新聞の書評に載っていたのが読むきっかけ。

超節約家のOLの語りで始まる物語、日常のデティールに自分と重なるところが多く、またガン体験者からきく話とも親和性があり、すいすいと読み進む。ガンの告知を受けてなんだか頭がぼーっとしてしまったタイミングで、病院でやけを起こしていたホストと出会い・・という展開だが、普通の色恋沙汰な感じでなくとにかく面白い。思い浮かぶのは年がいって自分の身の回りの世話をしてくれる人とくっついてしまう芸能人男性の姿。

途中から語り手がホスト側になり、視点が移動するところではっとした気づきが。視点が変われば世界も変わる。この落差が面白い。そこまで女から男にお金を提供するような形で描かれているからすいすい読んだり娯楽として受け流したところに、実はいまの社会の大事な問題点がわかりやすく表現されていることに気がつかされ、それをあくまでエンターテイメント性の高い文章でそこに思い至らす技量、そして型にはまらぬ着地点。これからもトリコさんの新刊は楽しみだ。

魔界転生

 

熱心なファンの多いこの作品いつか観てみようと思っていた。オーソドックスなモノクロ時代劇に慣れていると、いかにも80年代風のチープにもみえる空気にびっくりもしたけれど、出演者の気迫は本物だ。特に若山富三郎の迫力。出てくるなり只者ではない気配。真田広之はまだまだ若くてフレッシュな魅力。

原作山田風太郎天草四郎が核になり、細川ガラシャなど時の犠牲になった人たちを妖術で生き返らせ、幕府に仕返しをするという構成はとても面白い。

生き返った登場人物たちはこの世のものでない様相が加味され宮本武蔵に扮する緒形拳なんかもえらい特殊メイクなんだがそんなこと気にするのも失礼な位の気迫ある立ち回りを巌流島も思い出すような海岸で。最近観ている新国劇の流れ*1を汲んでおられるのだなあと感慨に浸りつつの鑑賞。

柳生十兵衛に扮する千葉真一が妖しのものと対決する刀を誂えに刀鍛冶のもとを訪れるシーンがあるが、この後作られるタランティーノ監督の「キル・ビル*2で刀鍛冶の役を振られていたなあとつながりを感じたりも。

「サムライ」と「ピアニスト」

フランス映画を二本。

「サムライ」(1967 ジャン・ピエール・メルヴィル監督)と「ピアニスト」(2001 ミヒャエル・ハネケ監督)

 

  • 「サムライ」

ふや町映画タウンのおすすめでもあり、いつか観るつもりだったのだけど、先日youtubeでよく楽しんでいる「暗黒名画座」で取り上げられていていよいよ観てみた。観てからもう一回話を聴いたら自分が思ったこと語り尽くしておられる気もしたが、台詞がミニマムなところ、映像によってわからせるところ映画として優れているように思う。ミニマリズムというと、色調も整えてあるのもストイックだし美しい。シルエット的にも役回り上もアラン・ドロンが目立つが、実はいやな攻め方をする刑事、こいつがなかなかわかっていて話を引き締めている。アラン・ドロンが小鳥を飼っている描写がアクセントになっていると思うが、これ「レオン」の観葉植物などに受け継がれているのではないだろうか・・「レオン」は「サムライ」の影響受けていると感じた。

 

 

  • 「ピアニスト」

ハネケ監督は「ファニーゲーム*1がなんとも後味が悪く次のチャレンジをするのに時間がかかった。「ファニーゲーム」のことを思えば底意地は悪いがこっちの気を引く調子で話が進むもののそれでどうなるのとちょっとわくわくするような気持ちで話を観ることができたのだが・・いよいよイザベル・ユペール演じるピアニストが毒親のもとで育んできた内なる想いを実現させる状況になってからの、交際相手への望みが相手の気持ちなんかお構いなしのひどくマゾヒスティックなものゆえの悲劇、彼女が妄想ばかり肥大させ現実には滑稽にみえるためにまだ直視し消費する余裕があるものの、愛情のやりとりってつきあう相手が多かれ少なかれ持っている狂気みたいな部分にどれだけつきあえるかという部分を持っているということを痛感させられ、またしても圧倒された。やはりハネケ監督心して接しないとなという気持ちに。

鍵盤をひくさまざまな手の表現や場面場面のクラシック曲の雄弁なこと。

清水次郎長、丹下左膳余話 百万両の壺

山中貞雄脚色の「戦国群盗伝」*1にハマって以来、山中監督とゆかりのある作品を数珠つなぎ式に観ている。

先日観たのは山中貞雄門下といわれている萩原遼監督の「清水次郎長」。

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www.allcinema.net

若き日の次郎長を描いたもので、ちょうど先日ふれたところの「男の愛」や錦之助の「若き日の次郎長」シリーズ*2と重なる。この映画では石松の少年時代が出てくるのが楽しいところ。大人になってからのシリーズに登場するちょっとばかだけど一途でかわいい感じそのままの姿。猫をとってもかわいがっていつも一緒。石松がやらかした失敗のためにみんなが貯金する猫の貯金箱まで登場。なんて洒脱なセンス。

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ビデオに同梱されていた山根貞男さんの解説によると招き猫は山中監督の「丹下左膳余話 百万両の壺」を意識しなかったとは思えない、とのことで、それを確認するため「百万両の壺」を再見。

いやあすごく面白かった。初回に観た時*3も面白いと思っていたが、スピンオフ的余話でない方の丹下左膳*4もみてからだと余計に楽しい。

丹下左膳が居候している射的屋の描写のテンポの良いこと、大河内さんの丹下左膳と射的屋の女主人の関係がもうチャーミングで、すべてにピタッとタイミング良く笑えること。壺の顛末などすっかり忘れていたがとっても洒落た着地。お家騒動的なことになりかねない事情を抱えた城の次男ののんびりしていること。*5なんと成熟したストーリー。

色川武大さんの「なつかしい芸人たち」*6を読んで以来、気になる存在になりひょこっと出てくると嬉しくなってしまう高勢 実乗さんもとぼけたくず屋(なかなか大事な役回り)で登場。旧い邦画(に限らず映画全般に?)、観れば観るほど楽しくなるものだなあ。↓高勢さんのwikipediaには「百万両の壺」出演時の写真。

ja.wikipedia.org

そうそうそして確かに「百万両の壺」にも「清水次郎長」に出てくる貯金箱とそっくりの招き猫が登場してることもちゃんと確認。

「百万両の壺」はふや町映画タウンのおすすめ作品。

*1:「戦国群盗伝」「国定忠治」「六人の暗殺者」 - 日常整理日誌

*2:「男の愛」、「若き日の次郎長 東海の顔役」 - 日常整理日誌

*3:丹下左膳余話 百萬両の壷(1935) - 日常整理日誌

*4:自分がみたのは中川信夫監督の「新編 丹下左膳 隻眼の巻」、これも新編と謳っているのだからオリジナルではないわけだが・・一応丹下左膳のああいう姿になった事情が描かれていた。

*5:道場主は沢村国太郎沢村貞子加東大介のお兄さんだった!

*6:なつかしい芸人たち - 日常整理日誌

修道女ルナの告白

修道女ルナの告白

76年 小沼勝監督。子どもの頃ドリフターズの番組で親しんでいたゴールデン・ハーフのルナが、ロマンポルノに出演、しかも、修道女役ということで公開当時新聞などの小さな広告や映画館前の看板でこの作品のことをみかけるとなんともいえない背徳的な気分がしていたものだった。

そこから幾星霜、今回はじめてどんなものか見聞。宮下順子さんや谷ナオミさんなどのしっとりした演技に親しんでいると、ん?情緒は二の次?なんだかすべてにあっけらかんとしているなという感想を持ってしまう。修道院の中の出来事などもかなり即物的、そんなことあるかいというようなストーリー展開だけどビッチな腹違いの姉さんが裏「黒い十人の女」的で荒唐無稽な制裁を受けたりニヤニヤしながら気楽にみられる代物だった。

76年当時の渋谷南口、原宿パレ・フランスやキディランドの風景などが封じ込められているのは楽しい。どこかのデパートの「オスカルのクリスマス」なる「ベルサイユのばら」の絵を使った宣伝なんかも。「花芯の刺青 熟れた壷」*1で歌舞伎界の御曹司がえらくハマっていた中丸信さんもちゃらんぽらんな役で活躍。(中丸さんは劇団四季出身らしい。現在の芸名は中丸新将。)

ラストへの展開はシャープでなかなか面白くニヤッとさせられた。

無法一代

 

京都、伏見の中書島遊郭が舞台ということで観てみた。「戦国群盗伝」が面白くて「六人の暗殺者」「国定忠治」と観続けている*1滝沢英輔監督作品。メリハリがあって観やすいつくり。

三橋達也新珠三千代の二人が縁故(宇野重吉)を頼ってやってきた中書島で裸一貫から遊郭をはじめる。三橋達也はなかなかイカす。「愛のお荷物」*2の時みたいにデレデレした感じでなくキリッとしている。新珠三千代はもともと若狭から買われてやってきた身、それが若狭に娘たちを買い付けに行くような境遇になっている。若狭出身の水上勉の作品に出てくる「越前竹人形*3や「五番町夕霧楼」*4日誌))の登場人物たちと重なる。

原作者は父をモデルにこの原作小説「廓」を書いたという。最後に話の出てくる赤ん坊が著者か?

少し前に五社英雄監督の「鬼龍院花子の生涯」を観たが、土佐の花街を舞台にした原作小説は、置屋の紹介人だった宮尾登美子の父が残した記録を参考として取材し創作されているとのこと*5。この作品と似たスタンスのように思うのだが、ちと派手派手しいばかりだった。まずは夏目雅子が放つ「なめたらいかんぜよ」の有名なセリフは実際に観てみると状況からちと違和感があったのだが、原作と設定が違っていたらしい。どおりでな。「鬼龍院〜」の方が大ヒットだったと思うけど画面の華やかさばかりでかなり大味になっていたのに対し、こちらは最後はちと安易だったけれど手堅い描き方だった。救世軍が廓の障害物になるあたりや中書島の川での舟を使ったお祭りの風景など興味深い。