四つの恋の物語(1947)

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四人の監督のオムニバス作品

第1話:初恋(豊田四郎
第2話:別れも愉し(成瀬巳喜男
第3話:恋はやさしく(山本嘉次郎
第4話:恋のサーカス(衣笠貞之助

 

一番好きだったのは、山本嘉次郎監督の第三話。浅草オペラのような場所が舞台のこの話、若山セツ子が声も様子もかわいい*1し、「ボッカチオ」の舞台もかなり使われていてエノケンだけでなく他の劇団員の動きもみられて面白いし、劇場に大福を売りに来る飯田蝶子もウィンクしている年のいった妖精みたいで魅力的だったりで全体に気が利いていてとても楽しい時間を過ごせた。

「ボッカチオ」を舞台で演じている幕の裏側では・・という設定なのだが、三谷幸喜のドラマ「わが家の歴史」でなじみのあった「ベアトリ姐ちゃん」を舞台でエノケンが歌っていて、これがまた妙な多幸感とそこからなぜか受け取ってしまう過ぎゆく時への哀感が心地よくて。

 

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昭和22年らしく飯田蝶子の台詞には食糧難もうかがわせるような言葉も入っていてた。

 

もう一本印象に残ったのは成瀬巳喜男の第二作目。木暮実千代と彼女がずっと面倒をみてきた男性の話だが、木暮実千代の大人っぽい魅力で「どん底*2や「モンパルナスの灯」*3のようなフランス映画的な香りもする一編だった。

ついでにいえば、一本目の、池部良の実家に預けられ、池部良とほのかな恋愛感情が生まれる久我美子も清純な感じで良かった。それを心配する杉村春子のキツさが効きすぎている感じもあったが・・四本目衣笠監督のサーカスのは、その実演は面白いのだけど話の展開にちょっとシャープさが欠けているようにも感じられた。キーになる女優(浜田百合子)はインパクトあった。

悪童日記

 

映画*1がとても良かったこの作品、信頼できる方が原作も是非とおっしゃてたので読んでみた。海外文学から遠ざかって久しく東欧圏の話ともなれば読みにくいのではないかと手に取るのが遅れたが、まるっきり杞憂。とても読みやすい。なのに、しっかりと作品世界に引きずり込まれる。

訳者のあとがきによると、「悪童日記」というタイトルは、作品の内容をより具体的にーそしてやや反語的にーイメージさせることを狙った訳題なのであって、原題を直訳すれば「大きなノートブック」とでもいった意味であるらしい。戦争中祖母のもとに疎開することになった双子の書いた日記で構成されているこの本、主人公たちは「悪童」という言葉からイメージされるいたずらの過ぎる子あるいは不良みたいな感じでなく、生きるためにセンチメンタリズムを排し、学び、自分たちの判断で前に進んでいく人間であって、神はこういう判断をするといいたくなるような神々しさと、途上の人間が訓練していく美しさ、そして驚きを備えている。全編ストイックさが漂っていて判断が彼らのルールにのっとってフェアであり、読んでいて爽快感がある。

今感想をまとめていて浦沢直樹の「Monster」はこの本がヒントになっている部分はないだろうか?とふと思った。双子、優れた頭脳と一般常識的モラルとのアンバランス、ヨーロッパの昏さというような要素から。

地名、名前などを排して書かれているこの作品、これはどこのことかな?と思いながら読むのだが、*2この匿名性がまたすっきりしていて汎用性を帯び、物語に入り込みやすくなっている。

*1:悪童日記 - 日常整理日誌

*2:訳者によるとハンガリーのクーゼクという町と推測されるらしい

90年代後追い

90年代、個人的に子育て介護等がいっときに押し寄せ、観ていない映画も多い。現在活躍している監督の初期の作品*1も輩出していて90年代に積み残し感を持っているので、ちょこちょこと後追いで観るようにしている。

今週観たのはロシアのパーヴェル・ルンギン監督の1990年カンヌ国際映画祭監督賞受賞の「タクシー・ブルース」と、「ロシアン・ゴッドファーザー<ラヴィアン・ローズ>」(1996)そして、日本の「20世紀ノスタルジア」(1997)。

ルンギン監督の作品は、初めて観たけれど、二つともペレストロイカ時代のロシアを身近に感じられ、新鮮。

 

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「タクシー・ブルース」は、マッチョなタクシー・ドライバーが、タクシー料金を踏み倒したミュージシャンに労働でタクシー代金を払わせようとしているうちに芽生える心情がテーマだが、速水螺旋人さんというまんが家の方が↓のようにtweetされていて、頷く。

ただただ身体を鍛えていたら鬱なんかも吹っ飛ぶというような乱暴な理屈で悲惨な状況に耐え、他人にもそれを強要するタフで即物的なタクシー・ドライバーの心にミュージシャンが与える影響・・住む世界に違うもの同士が相手のことをちゃんと理解することは可能かどうか、そして愛情ってなんだろうという問いが、独自の社会体制を超え普遍的な力を持ってこちらに投げかけられる。でも何よりかによりペレストロイカの頃のモスクワ市民の生活の感じがわかるのが楽しい。

「ロシアン・ゴッドファーザー<ラヴィアン・ローズ>」は、実話を基にしたストーリーということで、どこまでが実話の通りだか知らないけれど、大胆さに驚く。白石和彌監督作品のような容赦のなさとおかしさの同居を楽しむ。ロシアン・ゴッドファーザーらしいアジア大陸舞台の仕事っぷりも新鮮。

もう一本観た日本の「20世紀ノスタルジア」、

 

 

こちらは広末涼子氏のデビュー作ということで、とにかく彼女が瑞々しく輝いている。チュンセとポウセという、宮沢賢治の「双子の星」という作品に出てくるキャラクターと絡ませて話が進む。原將人監督、少し前に1969年の新宿の様子が映っていると知り、「自己表出史『早川義夫』編」(1970)という作品を観たのだけど、↓のインタビューでも語られているその序章に入っている「理絵の巻」という高校生の女の子が出てくるストーリーがざらざらしていて好みだった。二作品を観て永遠の青春を生きる人生きたい人というイメージを持った。

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蔵の中

 

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  • 山中康仁
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横溝正史原作、高林陽一監督作品。高林監督、「西陣心中」*1や「魂あそび ほうこう」*2でも京都の湿度のある昏さの表現に長けておられるなと感じている。こちらもまさしくそういう映画。戦前が舞台で中尾彬演じる編集者が、三高出身で放蕩→吉行和子の情婦と暮らしというのはありそうな設定。一番の見どころは窓枠からみた京都の風景。こういうのが京都の良さだなと感じる。主人公の名前が蕗谷笛二というのは蕗谷虹児からきているのだろうな。蕗谷虹児の描く怪しい世界ともイメージが重なる。「魂あそび ほうこう」と同じく人形がこの映画の中で大事な役割をしている。

ジュリーの世界

 

70年代後半から80年代前半にかけて京都で学生時代を過ごした著者が当時の京都を四条河原町付近の有名なホームレス「河原町のジュリー」をキーに描いたもの。著者のあとがきによると、はじめ、「河原町のジュリー」について多くの証言を積み重ねてそれを小説に反映させようとしたようだが、*1途中で考えが変わり自分自身の心の眼を通してみたジュリーと当時の京都を描こうとしたという。

自分も経験しているその当時そこにどんなお店があって、どんな事があって、という描写がなかなか緻密で読んでいてとてもわくわくする。今、すっかりどこにでもある大規模店だらけになってしまった京都の繁華街の個性的だった時代が甦る。こういう喜びは、「大阪」の対談*2の中で柴崎友香さんが語っておられることと重なる。

参考文献になっているプレイガイドジャーナル社の「京都青春街図」、古書店による紹介を読んでいるだけで心拍数が高くなる。同志社大学近くにあった文化発信喫茶「ほんやら洞」のような空気が充満。

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ラスト近くにも「ほんやら洞」の店主でカメラマンの甲斐扶佐義さんがされていたような、街角に写真を貼りだす展覧会の描写もあるし、甲斐さんの経営している「八文字屋」がモデルと思うような店も出てきて、「ほんやら洞」になじみのあったものにはとても近しい気持ち。

www.kyotodeasobo.com

かといって、「ほんやら洞」的空気一辺倒の本ではなく、70年代若者文化どっぷりというわけでない交番勤務の男性を語り手に選び、詳細にあの当時の街の隅々が当時のヒット曲も交えて描かれるこの体裁、楽しめる人の幅を広げていると思われる。サブキャラクターの男性による伏見桃山キャッスルランドのサザンのコンサートの話なども当時のラジオをきいているようなタイムカプセル感で興奮。この小説に出てくる事柄、どこまでが史実なのか調べ切れてはいないのだが空気感は同時代を生きていた自分に全く違和感なし。みうらじゅん氏の青春ものとも重なる時代感ともいえるかな?

五輪などのビッグプロジェクトに伴う街の平板化の問題にも京都ならではの京都国体という切り口で語られている。京都国体がそんな種類のイベントであったとはつゆ知らなかったが、妙にイケてないキャラクターが街中にあふれ、気が付けば四条通の地下街のホームレスの人たちがおられなくなっていたり・・というような事実は確かにあるな。

三条四条界隈と切っても切れない縁の映画館とオールドムービーを絡ませてあるところも自分には嬉しかった。

*1:ちょっと「ヨコハマメリー」のような感じだろうか?

*2:大阪 - 日常整理日誌

松坂慶子氏つながりの「女ざかり」と「死の棘」

大林宣彦監督の「女ざかり」を鑑賞。 

原作丸谷才一氏。大林監督らしい古い家や町並みをノスタルジックに撮っているシーンが冒頭にあり、ひきつけられ軽い気持ちで観始めたら集中することに。新聞社で家庭欄から論説委員に異動になった吉永小百合に豪華な出演陣がいろいろな形で関わる作品で、映画として胸に迫るものがあるとかいう種類のものではなかったけれど、楽しむことができた。

いかにも昭和のブンヤという感じのちょっと気取ったような会話の応酬も面白かったし社主として出てくる水の江瀧子氏の威厳のあること。水の江さんの映画もちゃんと観てみたくなった。

吉永小百合扮する女性記者のことを大切に思っている人間が何人かいて彼女がトラブルに巻き込まれた時尽力しようとするストーリー。交際している津川雅彦氏は、大学教授の役。政治家に談判に行って、次元の違う話をする時の妙に得意そうな空気や吉永小百合の家庭ごっこに対する冷ややかさ、彼女の職場の話の聞き方がお山の大将的であの時代の感じがとても出ていた。今もそういう傾向がある場所にはあるかも。高島忠夫吉永小百合には丁寧なやくざの親分。こんなことあるかなという話でもあったが、やくざの親分の孤独な部分、ロマンチックなところを表現するのに使うのにはふさわしい表現でもあるのかと思いもしたりなんか笑っちゃうような気分にもなったり。上背のある高島氏が上質のコートをまとい、にこやかでありながら裏でやることはやっている雰囲気など決まっていて、こういう人いるかもなと思わせるのだけど他の人物描写も含めもしかしたらこの作品は人をかなり類型的に描いているのか?という気持ちにもなる。(だからこそ見やすいのだけど。)高島氏のラストの印象がクイズの司会者だったので、こういう仕事をされているところを観るのは嬉しかった。

社会部から論説委員に吉永氏と同時に異動してきた三國連太郎氏が、少年の心を持った不器用なおじさん風情でとても良い。三國氏ならではの魅力の出し方。

政界にも力を持つ書の老大家に片岡鶴太郎氏。特殊メイクで不気味さを出しているところに大林監督風味を感じる。岸部一徳氏が政権与党の幹事長役なんだけど、こちらも額の狭いかつらをかぶって戯画的な演技。中村玉緒演じる芸者さんと多分座頭市の唄を披露する一幕は観客サービス的なコマかな?

月丘夢路氏が往年のスターで、吉永氏のおば役。昔交際していて別れた山崎努氏演じる総理のところに吉永氏の窮地のために訪ねていく、このくだりのロマンチシズムもほんと大林監督らしい。そこに出てくる総理夫人松坂慶子氏の精神のバランスを崩しながらもそれがとても美しい感じは幻想的で素晴らしかった。それで、ふと、松坂氏が精神のバランスを崩す役をされている「死の棘」に今こそ挑戦できる時か、と導かれる。

 

 「死の棘」は夫の不貞を責めて神経を参らせてしまった松坂慶子氏がえらくコワいときいたことがあったのだけど、遠藤ミチロウ氏のドキュメンタリー*1で、遠藤氏が島尾氏をとてもリスペクトしておられたこと、ふや町映画タウンのおすすめになっていて、カンヌ映画祭でも審査員グランプリを受賞していることなどで、観るタイミングを図っていた。

妻を襲う発作は本人にも制御不能の感じで、松坂氏もとりつかれたような演技であった。妻は奄美出身で、両親が出てくるときや、時々はさまれる島の映像などからもともととてもおおらかな人柄であったのが、行き場を失った情念がこういう形になっているのかなとも思わされた。妻のモデルになった島尾ミホさんのことを調べているとソクーロフの映画「ドルチェー優しく」に出演されていたり、満島ひかり主演の映画「海辺の生と死」もこの島尾夫婦のことを描いたものだと気がつき、石牟礼道子さんとの共著もあったり、またテレビで話をきいていてひかれていた梯久美子さんも『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』という本を上梓されているらしく、彼女のことをもっと深めたくなっている。

「死の棘」ついて、wikipediaには三島由紀夫のこんな意見を載せているが、

三島由紀夫は、世俗の実際的解決(妻の発作が酷くなる前に入院させ、いたいけな子供たちを守ること)に背かせるにいたった根本理由がわからないとし

私も映画を観ていてこどもたちのことが気になって仕方なかった。さすが「泥の河」の小栗康平監督、こどもをナチュラルに哀感こめて撮ることにはとても長けておられる。

「世にも奇妙な物語」風の・・

フジテレビで放映する「世にも奇妙な物語」風のドラマが割合好きで、 そういうテイストのものをすすんで借りてしまう。

 

本家本元のTVシリーズの「新トワイライト・ゾーン」も、ふや町映画タウンでは、 W・クレイヴンやW・フリードキンなどめぼしい監督のものが入っているものを見つけては入荷されているよう。1,2,6巻があるので借りてみた。

 

『新トワイライト・ゾーン①』
THE TWILIGHT ZONE
No.5875
動揺日 (1985) W・クレイヴン,22m.
静かなひととき (1985) クレイヴン,24m.
言葉あそび (1985) クレイヴン,17m.
夢売ります (1985) トミー・リー・ウォレス,9m.
カメレオン (1985) クレイヴン,20m.

 

『新トワイライト・ゾーン②』
THE TWILIGHT ZONE
No.5876
帰還兵 (1985) W・フリードキン,20m.
影男 (1985) J・ダンテ,19m.
解禁日 (1985) J・ミリアス,22m.

 

『新トワイライト・ゾーン⑥』
THE TWILIGHT ZONE
No.5877
燈台 (1985) G・オズワルド,19m.
時空を超えて (1985) ドン・ダナウェイ,27m.
さまよえる魂 (1985) W・クレイヴン,39m.
悪魔の方程式 (1985) ケン・ギルバート,8m.

 

 色々な監督が担当しているテレビシリーズの「コンバット」*1ロバート・アルトマン監督のものは光っているのだけど、こちらもふや町映画タウンおすすめの W・クレイヴン監督のが特別面白く感じられた。その中でも最初の方に入っていたせいかとても印象に残っているのが、新語に中年男性が振り回される「言葉あそび」、面白がらせようなんて思ってもいないような真剣な困惑ぶりがとても良い。

 

f:id:ponyman:20210828110222j:plain「動揺日 」(1985)では若くて今と印象の違うブルース・ウィリスが。

担当監督によってハートウォーミングに力が入っているもの、結構メッセージ性の強いもの(フリードキンの「帰還兵」はずっと緊張感のある画面でそんな感じがした)など味わいが違っていてアソート的に楽しめる。

 

もう一本借りてきたのは「実相寺昭雄の不思議館1」

 総監修は実相寺昭雄となっており、「世にも~」のタモリのような「夢先案内人」に寺田農

各話をみていくと、

第一話 「かぐや姫大木淳吉監督

ビデオジャケットには「人気AV女優『仙葉由季がかぐや姫の生まれ変わりをHタップリに体当たり演技!」って。。えらい触れ込み。確かに、必要以上の露出があった。エロスの表現って、SFの侵略者とかと同じで人間の頭で想像させるのが一番であってみせてしまったらそれだけなんだけどな。

 

第二話 「床屋」池谷仙克監督

池谷監督は、解説によると「夢二」を手がけた映画美術界の大御所とのこと。「床屋」っていうのは無防備な人間に刃物をもって対応する結構不気味な場所、という感覚はよくわかるし、それをとても薄暗い雰囲気で撮ってある。大杉漣氏が無精髭をあたられる妻に去られたインテリ役。

 

第三話 「受胎告知」実相寺昭雄監督

これが一番面白かった。最終的には宇宙人侵略もので、種の保存のため地球人の子宮を利用とか、なんか好きなように脚本作ってないか、という感じだが(脚本も実相寺昭雄氏)主人公の若き主婦役の加賀恵子のアパートの日常がとても丁寧に描いてあって好感が持てる。そのすぐ隣に裂け目はあるかも・・という描き方は面白い。

 

購読させてもらっているブログ「私の中の見えない炎」にも、このことが書かれていたのでリンクを貼らせてもらう。こちらにも書かれているが、豊川悦司佐野史郎の登場も楽しめた。

ayamekareihikagami.hateblo.jp