銀心中

 

銀心中

銀心中

  • メディア: Prime Video
 

 東北、温泉好きの家族がずっと前から観たがっていた映画。岩手の花巻温泉郷が出てくるから。↓こちらのサイトの「文学」のコーナーに原作者田村寅彦が「銀心中」を藤三旅館で書いた旨が。映画の中でも少し名前は変えてあったが通称である「白猿の湯」をイメージさせる名前がついていた。

www.namari-onsen.co.jp

 

 戦争がきっかけで生まれた悲劇を描いているのだけど、映画を自分が観た感じでは乙羽信子演じる女の妄執が長門裕之演じる男を追い込んでいる粘着性のある作品のようにみえてしまった。(新藤兼人監督作品ゆえの粘り?)

原作を読んだ家人がストーリーが少し違うというので原作を読むと、ずっとずっと原作の方が良い。映画の方にも出て来たことは出て来たが殿山泰司が演じる宿の人の扱いがずいぶん違っている。ひとつひとつのパーツは同じでも、色恋沙汰だけの話でなく、彼が生きてきて味わっていた気持ちの集積という色合いが強く、ずっと良かった。映画の方は通俗的になっている気がする。

銀心中 (1961年) (新潮文庫)
 

 馬面電車ともいわれた、花巻温泉郷を走る小さな電車が映っているのは見どころ。こちら↓の川本三郎さんと山下敦弘さんの対談でもあの電車の話がでてきている。

 

getnews.jp

伊東の街のロケも、今も追える場所があり、家人によると楽しめたらしい。

コラムニストになりたかった

 

コラムニストになりたかった

コラムニストになりたかった

  • 作者:翠, 中野
  • 発売日: 2020/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

「あのころ、早稲田で」*1の続編ともいえるような69年から2010年代まで中野翠さんの軌跡を綴ったもの。自分も生きていた時代というのもあるのかさらに読みやすい。驚いたのは中野さんが雑誌「GALS LIFE」の仕事をされていることだ。当時のティーン向けの雑誌の中ではショッキングピンクみたいなイメージのちょとあけすけな雰囲気のあった雑誌だから。お仕事をされていた主婦の友社つながりなのだろうな。とにかく仕事はできるだけ断らずやっていかれる主義だったようだし。中野さんの文章で思い出したが、原田治さんの描くポニーテールの女の子のイラストが確かにあった。そして赤羽建美さんが編集長だったんだ・・私、80年代に赤羽さんの本面白いなと思って読んでいた時期があるのだけど、調べたら(こちら参照)「日本のシ語」かな?「アーバンなクルマ生活」というタイトルにも覚えがある。いかにも80年代のあの頃っぽいタイトル。あと、ちょっとした恋愛ものとかも読んだ記憶が・・中野さんによると赤羽さんは「週刊プレイボーイ」の編集者でしゃべり方もしぐさもキビキビとしていて「我が道を行く」という感じの方だったらしい。

「Gals Life」、どこかに紹介がないかと思ったら取り上げられているブログを見つけた。(こちら)。原田治氏のイラストも出ている。そして、ブログに書いてある通りヤンキー風味だったな・・

そして、秋山道男さんの話。私は若松プロを描いた映画「止められるか、俺たちを*2にオバケという愛称で出てこられたのが秋山さんを意識するきっかけだった。パンフレットの座談会にも参加されていたが、その後すぐ亡くなられ、雑誌「映画芸術」の「止め~俺」の特集号に内田春菊さんの思い出の文章が載っていた。中野さんとの接点は、西武のPR誌「熱中なんでもブック」というものを作る時秋山さんに召集されたそうだ。「止め~俺」でも、こっちが勝手に資本主義社会とは縁が薄そうと思い込んでいる若松監督周辺の人たち、売れるものならなんでもという感じで特撮ものの脚本などガシガシ書いておられたが、秋山氏はそこからもっと先、チェッカーズ小泉今日子無印良品のプロデュースをされたのだった。「ゆけゆけ二度目の処女」*3ご出演中の姿を思い出し、あの方が・・と頼もしい驚きを覚える。

秋山さんについてはブックマークさせていただいている神戸山さんのブログ「2ペンスの希望」にも記事が載っている。

kobe-yama.hatenablog.com

その他、赤塚不二夫さんなど、中野さんが媚びずに持ち前の生き方で出会ってこられた方々とあの時代のことがとてもわかりやすく楽しく描かれている。面白かった。

吸血鬼

 

ロマン・ポランスキーの吸血鬼(字幕版)

ロマン・ポランスキーの吸血鬼(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」*1に登場するシャロン・テート役の女優さんがかわいらしくてかわいらしくて、本物をみてみたくなった。

上の写真や

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このビデオジャケットの裏のイラストのようにおとぎ話のようなかわいらしくおかしいブラックコメディ系「吸血鬼」であった。

若きポランスキーシャロン・テート演じる娘に恋する助手役で登場。まさに「ワンス・アポン・ア・タイム~」に出て来た二人の雰囲気だった。

後から来たファン故、ポランスキーというと「戦場のピアニスト」をぱっと思い浮かべ、シリアスな監督のように決めつけていたけれど、こんな作品を撮っているということは、「反撥」や「ローズマリーの赤ちゃん*2、「赤い航路」「ゴーストライター*3など、主人公を追い込みながらそれをどこか面白がっている側面があるのかも・・などとも思ってしまった。

男ありて

moviewalker.jp

先日父が亡くなり、大学映画部というつながりの中でおつきあいさせていただいていた方々がお参りくださった。それまでにお会いしたのは数えるほどなのに、映画の話を直接会ってお話しできるという機会は、細かいニュアンスもお互いによくわかって本当に楽しい良い時間でそこで出て来た映画を早く観たくて仕方なくなっている。

志村喬氏が好き」という私の発言を受けてすすめて下さったのがこの映画。志村さんは、スパローズというプロ野球球団の監督で家庭なんか二の次三の次のどうしようもない野球バカ。古いタイプの体育会系。今の時代だと批判を浴びそうだし、この時代でも岡田茉莉子演じる娘や小学生の息子に距離を置かれている。でも一生懸命で、不器用で自分の中では「タクシー・ドライバー」のトラヴィスに社会性と野球の能力を持たせてちょっとマシにしたような人物にみえた。それしか考えられないのだから仕方がない・・愛情がないわけではないのだけど、それをうまく表現するのはへたくそで。。ちょっと前にETV特集で観た身代全部呑んでしまって家族に苦労をかけた志ん生さんの姿とも重なったり・・(↓大変面白い番組。)

www.nhk.jp

彼の妻を演じた夏川静江さんがとても良かった。よくよく夫のことをわかっている。

娘からみたらなんて夫、という感じかもしれないけれど、妻にしてみたら不幸な気持ちではなかったのではないかな・・娘役の岡田茉莉子さんがきりっとした娘さんだけど決してイカつくなくてとてもチャーミング。

三船敏郎氏が、副監督役。志村喬氏とのつきあいなどきいていたので、とても信頼して演じている感じが画面から伝わってきて気持ちが良い。

志村さんが野球をする姿もあり、サッカーなんかとは全然違う野球特有の世界観も楽しめた。

途中出てくる映画「花嫁の父」も暗示的であった。(テレビ放映時少しだけ観て面白いなと思っていたので、早くちゃんと観る所存。)

私をくいとめて

 

私をくいとめて

私をくいとめて

  • 発売日: 2021/03/25
  • メディア: Prime Video
 

ちょっと極端な表現を使うところなど 「勝手にふるえてろ*1とテイストが似ているなと思ったら原作(綿矢りさ氏)も監督も(大九明子氏)同じだった。

途中に好きだったテレビドラマ「捨ててよ、安達さん。」に出てくる女の子(川上凛子氏)が登場し、調べていたら、あちらもメインの監督は大九氏だったようだ。そういえば、似ている空気がある。そして、「捨ててよ、~」の方が終始表現がマイルドで見やすかったようにも思う。映画の中で川上凛子氏の登場場面は一瞬だが、なかなか落ち着いて媚びた感じがない子役さん。私は好き。 

捨ててよ、安達さん。 DVD-BOX

捨ててよ、安達さん。 DVD-BOX

  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: DVD
 

 考えすぎて行動に抑制がかかってしまう感じの主人公。それを支える脳内の声。そこはすごくわかる。スタートはガツンといくためかやや極端なんだけど、ゆっくりつきあうにつれ、言ってること、心持ちはよくわかるようになる。

主演ののん氏、私にとっては朝ドラ「あまちゃん」を演じた若手という感じだったので、「崖っぷちおひとりさま?」という気もしたが、声の迫力に驚かされたり、かわいいだけの人ではもちろんなかった。「あまちゃん」での盟友(橋本愛氏)の登場の仕方はとてもスピンオフ的な空気もあり嬉しかった。そういえば、「勝手にふるえてろ」の方も「あまちゃん」での哀切のあるリーダーっぷりが印象に残る松岡茉優氏が主人公で今あの世代の活躍をみているのだな。

相手役の林遣都氏。こちらがまたすばらしい演技者だ。朝ドラ「スカーレット」でも、尊大なようなかわいいような役柄を上手に演じておられたが今回は今回でとてもナチュラルで魅力的だった。

そして、自分にとっては同世代の星片桐はいり氏の、年嵩の仕事のできる女役。どうかすると変わった役をふられがちのはいり氏なので、とても新鮮だったし、私はこういう役の方が好きだ。

また主人公の職場での心の支え役を演じた臼田あさ美氏、彼女も魅力的。NHKサラリーマンNEOのスタッフによる「祝女」というショートコメディで何にでも染まりうるニュートラルな空気を漂わせていた方だ。役の上での彼女のあり方、賢い生き方なのかどうなのか、そんな小賢しい批判を超えとても愛らしく惹かれる。彼女が演じているからなおという気がする。臼田さんもはいりさんも「~安達さん。」にご出演。大九監督ファミリーといっていいのかな・・

 

祝女~ SHUKUJO ~ DVD-BOX

祝女~ SHUKUJO ~ DVD-BOX

  • 発売日: 2010/06/23
  • メディア: DVD
 

 

ポスターにも印刷されているような「わかりみ」という言葉などはほんとに今だけという気がして、使うのをためらうし、そういう、今しかない表現にもかなり頼った映画で、永遠の名作とかいうのとは種類の違うものとは思うけれど、今の感じをタイムカプセルに封じ込めた表現の作品ともいえるのだろうな。

ロゼッタ、息子のまなざし

 

ロゼッタ [DVD]

ロゼッタ [DVD]

  • 発売日: 2012/03/23
  • メディア: DVD
 

 

息子のまなざし [DVD]

息子のまなざし [DVD]

  • 発売日: 2012/03/23
  • メディア: DVD
 

イゴールの約束」*1が心に残るダルデンヌ兄弟の作品を二本。二作品とも安易に観ているものを盛り上げる作為的な音楽がなく、ストイックな観察映画のようなタッチなのに決して難解でなく主人公の切実さに迫り、観るものを物語の中に巻き込んでいく。三作品で本当に好きになった。

キャンプ場でアルコール中毒の母を抱えながらも自分で自分の生活を回していきたい、ただそれだけが望みのロゼッタ。他者との意識の差、そこからの居心地の悪さ、惑い・・シンプルで真摯で、若年の主人公への迫り方がイランの映画を観ているような心地にもなる。オートバイが迫ってくる音の脅威・・実は自分もよく感じているものでここを突いてきたか・・と思った。

息子のまなざし」は、あらすじは知っており、主人公の置かれている状況をあらかじめ知っているから余計に冒頭から目を見開き緊張し続けて観た。あらすじだけきいてどんなにキツい話かと思っていたが、主人公自身が迷っているその迷いが自然で誰にとってもここまで極端ではなくても普遍の問題である罪や赦しというテーマを主人公が代表して引き受けてくれている、そして自分の問題を考える手掛かりにしてくれているという感じがしてとても観やすかった。罪と赦しというテーマは「ロゼッタ」でも感じた。良質の素材で作られた映像を味わえとても豊かな時間を過ごした心持ちだ。

主人公のオリヴィエ・グルメ氏、「ロゼッタ」にも「イゴールの約束」にも出ておられた。ダルデンヌ兄弟作品の常連らしい。

白痴

NHKオンデマンドで「100分de名著」の坂口安吾堕落論”の最終回、町田康氏が「白痴」について語る回を見た。町田氏の語り口の面白さも相まって、「白痴」とはなんと文学的で頓狂な作品なんだろうととても興味を持った。

 

www.nhk-ondemand.jp

 

 縁あって新潟のミニシアター シネ・ウィンドの月刊誌を購読しているのだけど、安吾新潟市出身ということもあり、よく安吾のことをとりあげておられる。そんな中でこの映画も私の頭に刷り込まれるようになった。

www.cinewind.com

 

そして観た手塚眞監督の「白痴」。手塚眞監督はヴィジュアリストを名乗っておられることもあり、ヴィジュアル面は特に目をひいた。

戦前のような未来のような格差社会。廃墟のような場所に舞い降りる虚飾の美。

虚栄の世界で乾きあがきつつも仇花を咲かせるサロメ的アイドル。それを演じる17歳の橋本麗華の美しさ。それこそ眞氏の父治虫氏のDNAを感じるようなマンガのような楽しさなんだけど、最後の最後結論の場面はそれを画であらわすことの限界を感じてしまった。

 

白痴 デジタルリマスター版 [Blu-ray]

白痴 デジタルリマスター版 [Blu-ray]

  • 発売日: 2021/03/03
  • メディア: Blu-ray