フェーム

 

フェーム(字幕版)

フェーム(字幕版)

  • 発売日: 2015/03/15
  • メディア: Prime Video
 

 この映画は主題歌が流行りすぎて、「フラッシュ・ダンス」と混同し、勝手に観たような気もしていて、出会いのチャンスを逃し続けてきた。

youtu.be

アラン・パーカー監督が先だって亡くなられたこともあり、ふや町映画タウンおすすめのこの作品、改めてちゃんと観てみようと思い立ったら、街で流れまくっていた主題歌から思い描いていたのとはテイストが全然違っていて、ドキュメンタリータッチのようなストイックな撮り方。自分の錯覚にやっと気づけて良かった・・というところ。あの主題歌だって話の中ではとっても微笑ましい誕生秘話があり、忘れられないシーンとなった。

先日ロシアのバレエ学校ワガノワアカデミーのドキュメンタリーをとても興味深く観ていて*1wowowでもワガノワの女子を追った番組をしていたので観たのだけど

www.wowow.co.jp

どちらでもニコライ・ツィスカリーゼ校長の容赦のなさ(でも皮肉なユーモアがきいていてなんだか愉快)がとても面白く、芸術世界で勝ち抜いていくコンテストが舞台みたいな話ってすごく惹かれるなあ。。その人の努力と日常がみえるところが。。と思っていた。「フェーム」もあれらの番組のような空気で人間に迫る(といっても上手に点描して、省略するところは省略してという描き方)ところがとても良く、ピックアップした人間へのあたたかすぎない寄り添い方、それぞれの生徒の事情の描き方がしっかりしていてとても好ましかった。アイリーン・キャラもとても魅力的だったし、良い映画だった。

ビデオ同梱の日野康一さんという方の解説によると、舞台になったPAというのは、High School of Performing Artsが正式名称で、ニューヨーク ブロードウェイのすぐそばにある4年制の演技芸術高校(職業高校)。アル・パチーノライザ・ミネリなどが卒業→在籍*2しているとのこと。(もっともっとたくさんの名が載っていたが、こちらの不勉強ゆえぱっとわかったのがこの二人。)そして、PAの青春群像というアイデアを思いついたのは歴史教師で俳優のデーヴィッド・デ・シルヴァで、半年かけてストーリーを書き、クリストファー・ゴアがシナリオにして、ハリウッドのメジャー系4社に送り、最終的には監督の候補としてアラン・パーカーをあげたMGMに製作を委ねたといういきさつだったそうだ。ドキュメンタリーっぽい感じを受けたのは誕生の経緯にも関係があるのかもな。

*1:NHKの番組記事にリンクしていたけれど2023年5月現在記事が削除されている。

*2:あとで調べるとパチーノは中退という情報も目にするので、卒業と書いてあったが「在籍」が妥当かな

嵐電

 

嵐電

嵐電

  • 発売日: 2020/02/25
  • メディア: Prime Video
 

鈴木卓爾監督の作品は説明過剰でなく肩の力が抜けていてみていてちょっと異星人的な気配も感じたりするのだけど、今回はそこからの、袖触れ合うものたち、よくわからない存在かもしれないけどそれぞれ必死で意外と自分と似たような悩みを持ってたりもするんだよ、人生勝手に決めてしまわないで扉を叩いていこうよ、というような気持ちに強くなれるものを受け取った。

嵐電の駅のいまむかしと太秦の映画製作、そしてナチュラルで特別の空気を持つ井浦新、無造作なようで衣装からも細かいその人物のプロフィールがわかるような繊細な表現。。などなどなかなか好ましい空気を持ち、よい時間を過ごせたなと思えるような作品だった。

影武者

 

影武者

影武者

  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: Prime Video
 

勝新の降板劇で勝手にケチがついたように思い込んでしまい今まで観る機会を逸していたけれど、ふや町映画タウンのオススメにも入っていてさっさと観なければと思い立ちの鑑賞。

壮大な映画という印象ばかりが念頭にあったけれど、人間ドラマの部分が面白く、なじみやすくも、さすがの気持ちをそらさないきちっとした画面づくり、能の要素も取り入れ、話の骨格にはエディプスコンプレックスも据え、神話的な愉しさ。偉大すぎる父を持ち、また武田家内での扱いから屈託してしまう武田勝頼を演じる萩原健一がもうぴったり。素晴らしい。滋味豊かな作品を観た喜び。

大滝秀治さんが武田の重臣だが、勇ましくもかっこいいこと。馬上の姿もあったが、吹き替えなしだろうか。。だとしたら凄い。とにかく堂々とした武将ぶり。水のcmや、テレビドラマホンカンシリーズのイメージが強かっただけに驚いた。物語最後の方の「風」「林」「火」の幟を掲げた重臣たちの刀をまじえての挨拶の素晴らしいこと。(大滝さんは「火」の幟。)ぞくっとした。

織田信長役の隆大介さんもすごく雰囲気がある。この演技でブルーリボン賞の新人賞を受賞しているようだ。

いやほんとに堪能した。勝新を惜しむ声ばかりきいてなにか妥協の産物なのかと思い込んで間違っていた。父にその話をしていたら、勝新だったら逆にクサかったかも、といわれ、そうかも。。とも思った。勝新が全面に出て、仲代版をみたときの神話のような感じが薄まったかもしれない。

 

野良犬

movies.yahoo.co.jp

先日亡くなられた森崎東監督の追悼でこの黒澤明で有名な「野良犬」のリメイクを推しておられる方がいらした。黒澤明の「野良犬」とは、若き刑事の拳銃が盗まれるということ、先輩刑事との関わりが描かれているということ以外は共通点のない作品。

さすが森崎東監督、沖縄と本州の問題を色濃く組み込み、迫力のある作品になっていた。そして刑事の描き方の辛辣さ。もちろん渡哲也演じる主人公やその先輩芦田伸介の感情には肉薄し愛情は感じられるのだけど、悲哀たっぷり。刑事なんて・・という感じに満ち満ちている。そして新宿の活写。ここも監督らしさだ。

沢田研二の「危険なふたり」が時代の空気を感じさせる。なかなか見ごたえのある映画だった。

この映画のことを書いておられるブログ↓で引用されている「沖縄映画論」の中の四方田犬彦氏の論考「生きてるうちが、野良犬 森崎東と沖縄人ディアスポラ」も興味深い。

earthcooler.ti-da.net

 

先日森崎監督の追悼で再放送されていた監督のことを取り上げたETV特集もとても印象深かった。もっと監督の作品を観たくなっている。

www.nhk.or.jp

テレビの嘘を見破る

 

テレビの嘘を見破る (新潮新書)

テレビの嘘を見破る (新潮新書)

  • 作者:今野 勉
  • 発売日: 2004/10/01
  • メディア: 新書
 

 テレビのドキュメンタリー番組の作り方、状況をわかってもらうために再現的に撮ることのどこまでが許容範囲かということをドキュメンタリー番組を巡って起きた事件を追いながら読者と一緒に考えるような体裁になっている。

厳密にその場で起きたことを撮影するだけではスタッフの拘束時間、金銭的にも番組は成立しないというのはよくわかった。

テレビで映っていることうのみにはできないのだろうなと薄々気が付いている人は増えているとは思うけれど、今野さんがテレビ的に許容範囲内と考えておられることは視聴者の考えているものより枠が広いと感じた。

今までみてきたドキュメンタリー映画についての種明かしも色々載っていた。「現地の人が物語を演じているような感じ」と思ってみていたドキュメンタリーの父フラハティの「アラン」*1は、映画のクレジットタイトルに堂々と配役が表示され、撮影時の50年前のアラン島の生活を島の人に頼んで再現したものだったとのこと。やはりそうだったか・・さらに「ナヌーク」*2についてもフラハティ監督の日記や共同プロデューサーをつとめる妻のフランシス・フラハティの回想記から氷の家の内部の光量が不足しているため、半分に切って光を入れ、ナヌーク一家は撮影時はその半分の家で日常生活を送ったとか。。。そのあたり知らない事実だった。それでも、どんな生活があったのか記録を残すための撮影であるからこれはあり、であるというような話の流れであった。

何も知らないでみていた亀井文夫監督の「戦ふ兵隊」*3は戦闘日誌をもとに再現されたものであり、そこにあった本質を伝える一番有効な手段であれば再現映像は大いにありという考えのもとに作られたようであった。

亀井氏が撮影上の再現について論じた小論文*4にある戦争ニュース映画の、中国兵が日本兵に打ち倒されるシーンは捕虜の中国兵の生命の犠牲があったことを示唆するような記述があるのは本当にぞっとした。著者は

本当だとすれば、再現シーンの是非の議論など、ふっとんでしまうような恐ろしい話ですが、間接的にとはいえこの内幕を日中戦争のさなかに暴露した亀井文夫という人はやはり信念の人であり、勇気の人であったことは認めざるをえません。

と結んでいる。

ドキュメンタリー、額面通りになぞ簡単にできるものではない、というそこだけはしっかり伝わる本であった。

二十一歳の父、不毛地帯

「殿さま弥次喜多 捕物道中」*1で、コミカルな山形勲氏の姿に打たれて以来、山形勲氏を追っかけまわしている。twitterでも評判の良かった「二十一歳の父」そして、「不毛地帯」。

 

movies.yahoo.co.jp

 「二十一歳の父」、曽野綾子原作で、テレビドラマにもなっていたが、「避けたい事柄」みたいな認識を持って今まで来てしまっていた。しかも、近年曽野綾子氏の言動で首をかしげることも多々起きたり、ますます遠ざかりそうだったけれども、山形勲氏の父親が良いときいてみてみたら・・素晴らしかった!

優生思想的な考えを持っているようなエリート長男とそれに反発して二十一歳の父になった次男、両方に対して親としての愛情を感じさせるバランスのとれた父を好演する山形さん。

子ども同士も同級生の友人宮口精二とのやりとりも嬉しい。宮口精二の息子役が勝呂誉。なんかニヒリスティックで二十一歳の父となった山本圭と対比的に描かれている。

すかした感じで勝呂誉が接近するお相手の馬渕晴子さんの美しいこと。成島東一郎のカメラも美しく馬渕さんを表現している。(バーで煙草をふかすところの背景とのコンビネーションの美しさ。教室での脚線美も目を引く。)

山形氏が京都出張するシーンで映る都ホテル、窓からみえる平安神宮京都会館なども嬉しい。

近年まで上品なおばあさん役などをされていた風見章子さんの母親役も心に残るものだったし、二十一歳の父のお相手盲目のマッサージ師を演じた倍賞千恵子さんも生き方への矜持が感じられ良かった。

 

不毛地帯[東宝DVD名作セレクション]

不毛地帯[東宝DVD名作セレクション]

  • 発売日: 2015/02/18
  • メディア: DVD
 

 「不毛地帯」は商社とアメリカの航空機会社、自衛隊を絡めた汚職事件的な物語。満州で軍の参謀だった仲代達也扮する壱岐という男が主人公で、wikpediaをみていると、それなりのモデルのような人はいるみたいだが、ずばりではないようだ。(ロッキードグラマンみたいな名前が出てくるが実際の事件とは関係ないよう)

昔、NHK土曜ドラマとしてよく放映されていた男の仕事を扱ったようなドラマのタッチで出演者も豪華なんだけど、総花的な気配もありNHKのドラマの方が話としては濃いかな・・登場人物も多く、原作に描きこまれてるだけのことが描ききれていないのかも。wikipedia情報だけど山崎さんはこの映画作品に満足されてなかったとか。。そういえばちょっともめていた記憶がある。(むしろいらんことを映画で書き加えたのが不満だったようだが。。)

シベリアで苦労して帰ってきて、軍とはかかわりを持たないでおこうと考えていた壱岐だが、山形氏が社長の近畿商事に入社し、運命的に軍用機輸入とかかわっていく。。それを心配し批判する娘が秋吉久美子。政治は国民の方を向いていないと60年安保闘争の映像が流れる。このあたり社会派山本薩夫監督らしく感じる。

山形氏の社長姿は素晴らしい。酸いも甘いも情も噛分けた人物を堂々と。

みたのは二本組VHSで。

 

この窓は君のもの

 

この窓は君のもの [VHS]

この窓は君のもの [VHS]

  • 発売日: 1996/04/26
  • メディア: VHS
 

 

pff.jp

がっちりつきあってしまって俗世的な悩みにとらわれてしまう直前の、集団のことなんか二の次になる一番楽しい時期をうまく表現した作品。

古厩智之監督は塩尻出身で山梨で撮られたようだけど、夏の葡萄畑の清々しさって私も松本を自転車で走っていて感じた。そのとき隣町ともいえる塩尻で見かけた葡萄棚。これはあの空気の中で育ってこられたひとならではの映画だなと思う。

転校してしまったと思っていたあの娘がおじいちゃんの都合で少々のの転居猶予、そして、という設定だが、高齢者と暮らしている自分にはそのおじいさんの暮らしや都合の部分が気になってしまったりもあったのだけど、若者からみたおじいちゃんって気にする程度もこんな感じかもなというのも身を持って体験している。

協力のところに鈴木卓爾監督の名前。鈴木卓爾監督、矢口 史靖監督とも「パルコフィクション」*1で仲の良い感じだったけれど、皆同世代のよう。