花嫁はエイリアン

 最近80年代頃を懐かしんでしまうことがよくある。突如ルパート・ホルムズの曲を次々きいて多幸感に浸ったり。

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↑宅内電話がメジャーだった時代らしくてとても好き。

 

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↑流行ってた頃の様々なことを思い出し、キュンとなる名曲。(調べたら「Escape」は79年の曲だったけれど、近似値ということでお許しを・・)

両方とも曲にちょっとしたドラマがあって好き。ただ大ヒットした「Him」はなんだか曲調が暗くてあんまり好きになれないのだけど・・あと、お姿、ラジオで好きになったものだからyoutubeでお姿をみて「こんな人だったのか・・」というのはある。

「花嫁はエイリアン」はふや町映画タウンおすすめ1000に入っていたもので観てみたが、80年代の空気いっぱいのSFでほんとかわいくて素敵だった。「ビッグ」とか「タイム・アフター・タイム*1と同じ空気を感じるのだけど、「タイム・アフター・タイム」は調べてみたら79年。。これまたぎりぎり70年代・・「花嫁は~」の方は89年だから10年違いとなってしまうけれど、やはり80年代頃の太陽の方を向いているような明るさ、ローテクな魅力あふれる時代の空気って良いなと思う。

エイリアン役のキム・ベイシンガー、「L.A.コンフィデンシャル」のあの息を飲む美しさはそのままで、もう体当たりな数々の姿。魅力ある。

原題は「My Stepmother is An Alien」。恋愛などに不器用な科学者の父親をサポートする、キム・ベイシンガーからみると、義理の娘の協力的な姿がまたいい。☺️

ジミー・デュランテというコメディアンの1942年の映画「晩餐に来た男」にエイリアンがぐっときてしまい、それが骨格になる粋でハッピーな気分になる映画。楽しかった~。

孤狼の血

 

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舞台は昭和63年。「県警対組織暴力」的な話がベースになる物語を現代の筆、映画スタッフで描いた作品。さらに、ミステリー小説的な愉しみもあった。

暴力対策のカリスマ的刑事を演じる役所広司役所広司の持つ陽性の色彩がこの刑事を輝かせている。そして狂言回し的な相棒刑事の松坂桃李。こちらが、また広大出の清潔な刑事という役どころにぴったり。彼の雰囲気でまた作品に魅力が増している。

江口洋介演じる頼れそうな若頭、対立する組のドン的な存在石橋蓮司の、蓮司さんらしいしゃれめかし。このあたり見ていてとても楽しい。クライマックスシーンの太鼓の音がキマってる。

警察側の田口トモロヲなどもよい味。トモロヲさん、ドラマ「ひとりキャンプで食って寝る」でもトモロヲさんのサブカル的な気配を消した普通の課長さん役がとても良かったが、こちらももう普通の、しかし仕事や仲間に誠実である刑事という佇まいを少ない出番できっちり表現されていて良かった。

WOWOW小山薫堂信濃八太郎の自然な評が楽しい「W座からの招待状」という枠で放映していたのを今回観たのだけど、試されるような部分のある映画を観たときお二人の感想が慰めになる。今回も冒頭にぎょっとするような描写があり、お二人の振り返りににやりとした。

 

恋人たち

 

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ルイ・マルの作品には、目の前で起きることにどこまでついていけますか、常識で切り捨ててよいのですかと試されている感じを持つものが多い。「好奇心」*1や「ルシアンの青春」など登場人物の行動には驚かされるのだけど、そこに至った感情の動きは緻密な表現によって見ている者をのみこみ、否応なしにこういうことだって人間の生活にはあるんだよと物語の中に放り込まれてきた。

「恋人たち」では、田舎で物質的には十分恵まれた結婚生活、子どもも可愛い、なのに、そこに満足できなくなってしまっているジャンヌをジャンヌ・モローが堂々と演じる。常識の枠にとらわれると、酷い、というような行動も、物語のクライマックスの居心地の悪いディナーでの応酬や、その後のジャンヌの顔に浮かぶ笑顔によって、そう思っているならその道を行け、というような気持ちになる。*2

挙げ句に、物語の終盤、この映画はここで終わるけれど、実はここから甘いばかりでない第二章が始まってしまうんだよという予感。全編、ジャンヌを冷静に撮っているような姿勢やそう来るかというような展開もおもしろいし、自分の居る事態に自覚的なジャンヌの目の見据え方は、なんだかルイ・マルってよくわかってらっしゃるという気持ちになり、力強さも感じる。

*1:好奇心 - 日常整理日誌

*2:友人も「死刑台のエレベーター 」での彼女の笑顔について語っていたけれど、ジャンヌ・モローってなかなかおっかないけれど、それゆえか笑顔がとびっきりかわいくみえる。

鯨とり、我らの歪んだ英雄、旅人は眠らない

 80年代から90年代にかけての韓国映画の第三の黄金時代の話題をシネ・ヌーヴォーのtwitter投稿↓で読んで

 したところ、以下の3つの映画のことを話しかけてくださった方がいらして、観てみた。すべてVHSにて。

まずは、 84年「鯨とり」

鯨とり

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モテない大学生(アラレちゃん眼鏡、若い頃の大江千里風。ニューミュージックのトップシンガー、キム・スチョルという人らしい。)、放浪者、売春宿に売られた失語症の娘の三人がロードムービー。物語の最初の方で大学生が失意のはてに「鯨をとる」という夢を語るのだけど、それは75年の有名な韓国映画「馬鹿たちの行進」で、鯨を捕まえに行こうとした登場人物の姿が「四・一九革命の理想が、現実の中で挫折してしまったことを象徴的に描いたもの」であり、「鯨捕り」という主題歌も使われていることと密接に関係があるらしい。「馬鹿たちの行進」のあらすじをみていると、主人公が哲学科の学生というところも共通している。

www.kinenote.com

 

 そんな切なさもベースに、「鯨とり」、なかなかかわいらしい話だった。学生はとことん青臭くて愛すべき感じだし、アン・ソンギ演じる放浪者がもうえらく魅力的で。アン・ソンギ、韓国のスターときいているが、ちょっと日本でいえば役所広司的な魅力を感じる。出るものによって表情も違っているし*1、でもものすごく人を惹きつけるものがあって。「勧進帳」的な展開も含まれて楽しませる。

 

二作目は92年「われらの歪んだ英雄」。

われらの歪んだ英雄 [DVD]

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 こちらはソウルの名門校から田舎の小学校に転居してきた主人公が、転校先で優等生としてまつりあげられている万年級長の欺瞞に気づき抗するが・・というストーリー。ヨーロッパでアジア文学の最高作と絶賛されたイ・ムニョルの原作をアジア映画界の新鋭パク・ジョンウォンが、甘いノスタルジーのみに走ることなく、現代をしっかりと見据えた視点で描ききった傑作である

とビデオジャケットに書かれているが、その通りで、昔話としてでなく、アイヒマンの話を聞いた時のように今の自分に突き刺さった。正しいか正しくないかの議論を「正論」という言葉で片づけ、空気で判断することが是としてやっていくあり方への批判。それを、教室での理不尽な出来事として見やすく作ってあるところも見る人の心に広く届くように思う。教室ではそれこそ空気を読まなく、とんちんかんで「何をいってるんだ?」みたいな扱いを受けている子が、太宰治の「人間失格」で、主人公の盛った行動を見抜いた少年のように、見通す力も持っていたという表現にも国を超えた普遍性も感じた。

 

eiga.com

もう一本みたのは、87年の「旅人は休まない」。こちらはソウルに生きる公務員や財閥の看護師がごく現代的なストレスフルな生活の中から魂の旅へ導かれるような物語。こうなればスカっとするなんていう観客の甘い予測は裏切りつつ平温で話が進むところに好感を持つ。具体的でリアルな表現の部分と神秘的な場面が交錯しなんともいえない余韻を残す。

1987年東京国際映画祭 国際批評家連盟賞

1988年ベルリン映画祭カリガリ賞受賞

 

*1:私がみた「祝祭」では、この映画とは対照的なまじめな演技で、お母さんを送っておられた。

ミセス・パーカー ジャズエイジの華

 

 

 1920年代のNY。フィッツジェラルドのいうところの「ジャズエイジ」の世代の人々。フラッパーや断髪とアールデコ調のファッション。ミセス・パーカーを演じたジェニファー・ジェイソン・リーの服装が、精神的に落ち込んで最低の状態でもいつも美しく、色合いなども美しく、映画の夢をみさせてくれる。

 ファッションとしては、吉野朔美さんのこの作品↓を思い出した。ちゃんと読んではいないのだけど、連載当時時々みていて。

HAPPY AGE 1 (ぶーけコミックス)
 

 また資生堂アールデコ調のデザインも思い出す。

www.art-annual.jp

 

 こちら↓のサイトでは、

longride.jp

 

柴田元幸さんが1920年代のアメリカを

「華やかさの陰に暗さを抱えていた時代」

と書かれているが、まさにこの物語の主人公ミセス・パーカーは、そういうものを抱えていたし、この映画の本質は、華やかな時代にあっての魂の彷徨の物語ということだと思う。

 この時代のことを調べていたら↓のような本の紹介も出てきたのだが、

allreviews.jp

 

まさにこの、差別の問題への視点というのは派手な生活を送っていたミセス・パーカーがたどり着いたともいえる着地点ではっとさせられた。(さらに、「フランスに舞台を移したジャズエイジ」ということから、ウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ*1ともつながる。)

ジャズエイジの人たちをみていると、80年代に20代を迎えた自分にはとても近しく感じられる。フラッパーヘアも、ジャズエイジを意識したようなファッションも流行ったし、そのあとの不況や暗い時代を超え、80年代の論客たちが今、軽佻浮薄だけではダメだと政治にコミットしたりする姿とも重なる。(私自身、80年代の軽薄短小時代を享受し、50代になった今、80年代的に面白がっているだけの罪というものを痛感している。)

ユニークではあるが、頑固な年寄りのようにもうつり、わかる人にしかわからないという境地の晩年のミセス・パーカー、地味にはなったが、言行一致というか、フラッパーを決め込んでいる時の苦悩からは解放されているようにもみえた。

ジャズエイジというと華やかさをまず思い浮かべがちだったが、むしろその中での苦悩、それがミセス・パーカーを演じるジェニファー・ジェイソン・リーの繊細な演技からうかがえ、あまり期待しないで観たのに、とても心に残る作品となった。

そうそうミセス・パーカーたち論客が楽しくやっていたというアルゴンキンホテルの円卓、「アルゴンキン・ラウンド・テーブル」が出てくるのだけど、こちらもウディ・アレンの映画に出てきていそうな談論風発な世界。その場面では、ウディ・アレン映画でお見掛けするウォーレス・ショーンがアルゴンキンホテルの従業員役をつとめ、狭いところで集う連中をどうにかしようとラウンドテーブルを用意する設定になっていた。

順子わななく

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1978年日活ロマンポルノ。vhsにて。武田一成監督作品。武田監督の作品、「おんなの細道 濡れた海峡」*1もキツいところがなく、抒情が感じられ好きだったが、こちらも良かった。もう今の時代っていうのもあるのか、また自分が女性というのもあるのか、ロマンポルノでも犯罪的に女性を・・とか、哀しさの表現としては理解できてもやはりみていてしんどい。この作品はそういうのと無縁で、丁寧に下町でロケされた宮下順子のほほえましい話という感じでよいなあとなった。もちろん、ロマンポルノだからそれなりのシーンもあるし、主題もそういう感じではあるが・・宮下順子の下宿のおばさんに最近名前をちゃんと認識した*2武智豊子さん(武知杜代子名義)。一階で駄菓子屋を経営している設定がサマになっている。宮下順子のところに通ってくるのが殿山泰司氏。殿山さんがいかにも下町の仕事人って感じで、魚のせりの場面の、帽子をかぶって符丁をあやつるところなどすごくリアル。役が生きている。下町の旦那衆らしい行動に見惚れる。殿山泰司の奥さんは絵澤萌子氏。宮下順子との対比みたいな役回り。

浅草寺の節分の様子、荒川線の宮ノ前駅あたりの風景などの撮り方もちゃんとしていて味わえる。*3カメラマンは姫田眞佐久氏。寿司屋のシーンなどでも椅子と人間の配置などに美しさを感じた。

*1:おんなの細道 濡れた海峡 - 日常整理日誌

*2:下町の太陽 - 日常整理日誌参照

*3:宮崎祐治氏の「東京映画地図」によると、「荒川線の(宮ノ前駅)停車場を降りるとすぐに尾久の八幡神社。日活ロマンポルノながら『順子わななく』ではその辺まで丁寧に描かれる。」と書かれている。p203

イゴールの約束

 

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観たのはvhsにて。

映画の好みが重なりがちの方々からこの作品のことを耳にし、気になっていたところに、「ハッピーアワー」*1や「寝ても覚めても*2で感銘を受けた濱口竜介監督がこの作品の監督ダルデンヌ兄弟と対談しているのを朝日新聞で読み、勢いがつき観てみた。

www.asahi.com

だが、気合いなどいれなくてもすっと入っていける話であった。主人公イゴールは、ベルギーで不法滞在者をこっそり泊め労働させることで生活をしている父の助手のような毎日。本当は車の整備工になりたいのに、仕事場も父の呼び出しですぐ早退しなければいけないような日々。それに反発するとかではなく、こういうものだと割り切っているような感あり。改造して作ったゴーカートを友人と運転するのが唯一楽しみの時だ。

dvの加害者的に暴力と優しさをくるんだ感じでイゴールを完全に支配する父。イゴールへの愛情がないわけではないところがタチが悪い。そんな父のもと生活するためにいっぱしのワルなイゴールだけど、ある事件をきっかけに自分の考えで動こうとし始める。状況の積み重ねの表現がうまく、シンプルに作ってあるので、イゴールの逡巡葛藤に、みているこっちもすっかり同じ気持ちになり物語にのめり込む。優れた小説に邂逅したような後味。

ダルデンヌ兄弟、以前気になって録画していた「息子のまなざし」の監督でもあることに後で気がつく。次々観てみよう。