ボクと空と麦畑

 

ボクと空と麦畑 [DVD]

ボクと空と麦畑 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • 発売日: 2003/10/24
  • メディア: DVD
 

 みたのはVHS版

12歳の、人には説明できないような屈託、あこがれ、もやもやの秀逸な表現。舞台は70年代のスコットランド工業都市グラスゴー。音楽や映像が時には皮肉なほど美しく心に残る。原題「RATCATCHER」、2020年の幕開けにふさわしいネズミ映画でもあった。 

この映画を観たきっかけは、「ふや町映画タウン」の在庫一覧表を見ていてタイトルが気になって・・というような理由だったんだけど、リン・ラムジー監督、この作品以前に撮っていた短編が二度カンヌ映画祭短編部門でグランプリを撮っていたり、また近年も「ビューティフル・ディ」という作品が、カンヌの脚本賞と男優賞(ホアキン・フェニックス)を受賞していたり・・来日もしていたようだ。これから気を付けていこう。

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 音楽は↓こんな選曲。小津安二郎の映画でかなしい場面に朗らかな音楽が流れるような感じでぐっとくる。

何かいいことないか子猫チャン?(ボクと空と麦畑)

何かいいことないか子猫チャン?(ボクと空と麦畑)

 

 

 

ロリポップ(ボクと空と麦畑)

ロリポップ(ボクと空と麦畑)

 

 

悪童日記

悪童日記 [DVD]

悪童日記 [DVD]

  • 出版社/メーカー: アルバトロス
  • 発売日: 2015/03/04
  • メディア: DVD
中野翠さんがほめておられるのを読んで前から観たかった作品。私も大好きだった。少年ものってとても好きなジャンルかも。
戦争中の迫害から逃れ、祖母のもとに母に預けこられる双子の物語。母は出奔したあと長い間彼女の母と連絡もとらず、周りと隔絶した暮らしをしてきた少年たちの祖母は、周辺からは魔女と呼ばれ、こどもたちを「メス犬の子ども」と呼び続ける。
どんな環境でも勉強を忘れず日記を書き続けろという父の教えを守って綴る日記。そこで出てくる映像がそれが子どもの心象世界を豊かに表していてとても惹かれる。
強くなるために自分たちに課した事柄を一つずつクリアして、成長していく二人。
だれない緊張感、大人になってないからこそ、野生動物、あるいは神の領域とでもいえるような生きるための取捨選択をしていく双子の美しいたくましさに見惚れる。

冬の嵐

 

冬の嵐 [DVD]

冬の嵐 [DVD]

 

みたのはvhs

タイム・アフター・タイム*1マルコム・マクダウェルの相手役が素敵だったメアリー・スティーンバージェン。当時マルコムの奥さんだったらしく、マルコムのかわいらしいところがうまく引き出されているなあと感じた。で、彼女のはなしをしている時にこの映画もすすめられた。確かに三役こなし、彼女の普通ぽい魅力プラスアルファーが味わえる作品だった。

売れない女優が撮影と称して屋敷に連れ込まれ。。屋敷にはスター俳優たちからのサインが飾られている。。という導入は「サンセット大通り*2のテイストも感じる。そして、そのサインに纏ってマルコムのサインまで出てくる目配せは楽しい。ヤン・ルービッシュ、ロディ・マグダウェルの不気味コンビぶり、伏線回収も楽しめる。

年越しの描写があったりネズミが出てきたり、タイミング的には2020年のお正月にみるのにふさわしかったかな。。

さよならテレビ

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京都シネマにて監督とプロデューサーの舞台挨拶付上映。

退屈しないつくり。一番気になったのは失敗ばかりを映される契約社員の新人記者渡邊氏。すごい切り取り。多分渡邊氏だって人当たりのあたたかさで取材対象の心を開かせたりということだってあったと思うが、テレビの余裕のなさ、彼に対する処遇を印象づけるために、彼のプラスの面は表現されない。もちろんそれではブレてしまうのだけど、人にみせるための表現というのは容赦ないものだなあと、切るところが切れなく、やんわり表現するあまり何も伝わらいのが常の私にはとても印象に残った。

そういう意味でも色々考えすぎてありきたりから脱しきれなくなってしまうキャスター福島氏の悩みは身近に感じられた。

圡方宏史監督、「ヤクザと憲法*1でもマイルドというかほんと無害あるいは非力な雰囲気で取材対象に近づいていたが、この映画に登場する社会派のベテラン記者澤村が共謀罪の問題について監督に問うた時の「正直よくわからないです」という言葉に、この監督の本領、動物の権力闘争の時に、無害ですよとおなかをみせたりして相手に接近できるタイプの生き物を思い出したりもした。。

テレビの数字至上主義はよく耳にするがこういうものなのだろうなあと肌で感じられた。切り取ったものであるし、うのみにしてあれこれいうのは危険だろうが放送業界で働く知人の苦労の一端は感じ取れた。

満席の会場、みたあとの交流会で活発な質問がでたのは本当に面白かった。特にインターンシップなどに参加していて放送局のよいところばかり見せられていたのに、そこでは決して語られないようなダークな部分が描かれ、さらにはそれを当たり前のこととして平然とみている周りの大人の反応をみて戦慄している自分という話をしてくれた大学三年生。あんな風に自分の思いをわかりやすく表現できる彼がつくるものが楽しみである。

 

☆これをみた直後、大好きだったテレビ局舞台のコミック「チャンネルはそのまま」*2がドラマになって日本放送連盟賞テレビ部門グランプリを受賞、朝日放送系列で放映したのでみてみたら、はじめは、「さよならテレビ」との明暗に、両者を同じテレビを扱ったかけ離れた作品のように感じてしまったのだけど、だんだんに、結構、話重なっているかも~という気分になってきた。(タッチはだいぶ違うのだけど・・)

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津軽のカマリ

 

tsugaru-kamari.com

 

高橋竹山氏、「竹山ひとり旅」*1で知り、また青森の酸ヶ湯温泉などでも紹介をみたりしていたが、女性の二代目に代替わりされていたことはこの映画で知った。

この映画は、初代の元気なころの映像とお弟子さんの回想、二代目竹山へ竹山の名前を譲る、引退間際最後の温泉での公演の初代の姿が収められているが、最後力が衰えてきて良い竹山とダメな竹山の姿を両方映してもらったらいいという初代の言葉に自然と一体化した頼もしい言葉を口にできる人なんだなあと感銘を受けた。

確かに最後の舞台の演奏には往時の力強さはないけれど、そのあと、二代目竹山の、ようやっとの青森での公演の演奏(青森では当初すんなり二代目を認められる人が少なかったという)をきいて、一粒の麦が死んで次の芽が吹いている、植物の代替わりに似たものを感じた。

少し話はそれるけれど、お正月に山田太一氏に八千草薫氏の訃報に際し連絡が取れなかった件がyahooニュースに載っていた。記事をしっかり読めば少し前のラジオ深夜便にも出ておられたことが載っているのだけど、そこでちゃんと話されているのをきいた身とすれば、この記事のヘッドラインの、心配するふりをした興味本位みたいな感じがよい気分ではなかった。ラジオ深夜便のインタビューの中で、山田氏は今の最大の関心事は死であり、何か書くとしたらそのことしかないようなことをおっしゃっていた。人間がみんな避けて通れない死の問題、yahooニュースの口調みたいに特別の悲劇みたいにして結局は対岸の火事みたいに消費するのでなく、山田氏に問いかけられて自分なりにいろいろ考えたりしてみたい。内心はわからないにしても、初代竹山さんのように、アンチエイジング的にあわてるのではなく、かっこよく受け入れたい。

津軽のカマリ [DVD]

津軽のカマリ [DVD]

  • 出版社/メーカー: マクザム
  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: DVD
 

 

もう少し浄瑠璃を読もう

文楽の公演などで、ある一場面だけを演じられ、そこに至るまでの話はあらすじで追うしかないということがままあるが、橋本さんはその物語の本質、肝要なところに切り込み、あるときは浄瑠璃ではなく同じ題材の説経節などに長い時間をかけて解説し、これはこういう話なんだよと呈示してくれる。(橋本さんは海外の映画でもそういう説明の仕方をしてくれる人だったなあ。)

ふーん、なるほどと一番思ったのは「出世景清」。歌舞伎の玉三郎さんが楽器の演じ分けをすることで「壇浦兜軍記」の「阿古屋の琴責め」の、阿古屋の夫が景清。あのだしもので、問題になっている景清ってどんな人ということはスルーになりがちだけど、その理由について考察したもの。

ほかの章もたとえば「夏祭浪花鑑」など現代のヤンキーにたとえてみたり、橋本さんのお仕事は楽しく読めるのだけど、それが、彼がきちんとした仕事をするという信頼のもと安心して享受できるものなんだよな。

 

もう少し浄瑠璃を読もう

もう少し浄瑠璃を読もう

  • 作者:橋本 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: 単行本
 

 

おかえりなさい、リリアン

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感受性が鋭く愛に対する欲求が強すぎたために60年も精神病院で暮らしてきたリリアン。病院の建て替えをきっかけに甥っ子の家庭にひきとることになるが、その妻、元女優のハリエットも思春期に差し掛かっている息子の子育てや次の子どもの妊娠などのことでナーヴァス気味になっており、そこから、という物語。

マイナーなグループの人間の心にメジャーな方(この映画では夫だったり、父だったり、世間だったり)は無自覚ではない?という問いかけが感じられる作品。でも無自覚側の夫もたとえば「女はみんな生きている」*1などコリーヌ・セロー作品に出てくる男性みたいにわかりやすく鈍感だったり足りなかったりして滑稽な感じではなく、彼なりに一生懸命だけど届いてない感じ、これくらいのすれ違いならあるなあというポイントが描かれていてそこの抑制した感じが良かった。

抑圧されている側の気持ちの表現ははっきりわかる激烈な形だったが、雨降って、そこから安易に地固まるのでなく、とてもストイックにまとめてありそこも好感を持つ。

リリアンを演じたペギー・アシュクロフトと、ハリエット役のジェラルディン・ジェイムズは89年ヴェネチア映画祭で最優秀女優賞をダブル受賞したという。

また思春期の子ども、彼の表現も絶妙。子ども時代のかわいさを求める側には生意気に思えてしまったりする彼も、彼なりの家族への心のかけ方をしているんだよ、という。悪者を安易に設定しない繊細な作品だった。

 

おかえりなさい、リリアン [VHS]

おかえりなさい、リリアン [VHS]

  • 発売日: 1993/06/02
  • メディア: VHS