天使のはらわた 赤い教室

昭和53年 曽根中生監督作品。

樋口尚文氏の「ロマンポルノと実録やくざ映画」には、「七十年代の日活ロマンポルノを代表するーーというより日本映画を代表する傑作であることは間違いない」と書かれている。

ヒロイン名美役の水原ゆう紀氏は宝塚出身の清純派アイドルで「本陣殺人事件」のヒロインも務めたとのこと。前述の本にも、曽根監督の「嗚呼!!花の応援団」*1に少し出演されたあと来た脚本にすごくほれこみ、入り込んで演じられた旨が書かれている。

しかし乱暴されて堕ちていく女性が主人公でしょっぱな、ブルーフィルムに映ったそのシーンから始まる本作は、犯罪ものが苦手な自分、そして現代の世の中の流れの中からみるとかなりつらいところがあった。水原さんも名美がかわいそうでいとおしくてもうすっかり入り込んで演じられたそう。

全体を通して、曽根中生監督のリアリスト的な空気に惹かれた。ヒロイン名美に惹かれる蟹江敬三演じる人物の仕事はポルノ雑誌の編集者。その仕事の現場の風景が「ザ・仕事の手順」という感じで明快だ。その中でバランスをとって生きていたはずの蟹江に訪れるパッションというところにコントラストがついている。

ロマンポルノという制約の中で、いわゆるポルノ的な性の消費のなかの神話的な物語を紡いだものではあるけれど、蟹江敬三演じる主人公が嫌気がさしているような世界の耐え難さが心に残ってしまった。

 

天使のはらわた 赤い教室 [DVD]

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みたのはvhs版。

 

 

猫ピッチャー 8

 

猫ピッチャー 8 (単行本)

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猫のものって、猫のかわいい仕草と気難しいプライド、そしてツンとしているようで意外と間抜けな展開になることもある、という加減がおもしろいんだよな。二軍で敬われるミー太郎。こっちまで誇らしい気持ちに。

俗物図鑑

中野翠さんの昨年末に出たコラム「ズレてる、私??」*1に載っていて気になったので借りてみた。

今、観直したら、何だかフワーっと軽く陽気になったかのような、一九八〇年代初頭の空気が思い出されるのでは?

と書いてあったが、まさにその通り。あの時代の、アカデミズムが柔らかくなったような空気が横溢していた。

80年代初頭の文化人が大挙して出ていて、芝居は文士劇というか、趣味的なにおいがしたけれど、当時の交流の空気は感じられる。そして、筒井康隆らしい話だなあと思った。(筒井さんの文章で十分で、映像化しないほうがいいのではというシーンもあり。)

 迫力があったのは竹中労氏。インテリっぽさがおもしろかったのは、四方田犬彦氏と手塚眞氏。入江若葉さんはこの中にあって特別の女優の輝きがある。入江さん親子がお好きな大林監督も出演。役の上での回想シーンは大林監督の初期監督作品のテイストが濃厚。あの部分は大林監督の手によるものだろうか・・

中野さんは四方田さん、南伸坊さんと当時から知り合いらしい。

俗物図鑑 [VHS]

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バジュランギおじさんと、小さな迷子

bajrangi.jp


友人にこの映画をマンガですすめているかわいらしいtweetを教えられ気になったので見に行った。
世界的に大ヒットしているインド映画らしいが、話のメリハリのつけかた、歌舞伎的な派手さとヒューマンドラマ、コメディの要素のからませかたがうまく、終始楽しい時間を過ごせた。迷子の女の子もかわいらしいし、映画の中で出てくる普通の人のせりふや振るまいに胸をうったり、しかしズブズブのよい話でなくメリハリがきいていて、自国と隣国との問題なども考えてしまったり。。とにかく、ひとの心を動かすには、とにかくよい仕事でみせなきゃダメだよ、という気持ちにとてもなったのだった。

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール

 

fiorentinaxさんのブログを読んで、日本映画専門チャンネルで視聴。

大根仁監督、テンポがいい。以前みた「バクマン。*1も少年ジャンプの話だったが、売れるためにはどういう仕事をしていくべきかというものの見方を感じる。そこは押さえつつも捨てないオタク感覚もあり、楽しめる。雑誌編集の世界のくせのある人々、なんだかリアルに感じた。最後に出てきたのはうわさにきく神楽坂のかもめブックスだな・・

ラストシーンは「コミック雑誌なんかいらない」のポスターに似ているように思うのだが。。「コミック雑誌~」未見なのでなんともいえないけれど。

 

 

ヒポクラテスたち

 

ヒポクラテスたち [DVD]

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この映画は80年代に東京で大学生だったときにみて、好印象だったけれど、京都に帰ってきて五十代になった今みてもっと好きになった。大学生のときは近すぎたけど今みると医学部に進学した友人の息子さんのはなしなどもまぜあわさって、俯瞰で味わえるというか、ほんとに医学部にまつわるいろんな視点、そこで学ぶ若者それぞれの姿をうまく混ぜ合わせてあって、たのしめ、かつ、心にささり、それでいて懐かしいあたたかみのある名作だ。

主役の古尾谷雅人が丸顔を残したような瑞々しさ。ほんとに惜しい人を亡くした。

内藤剛志がロン毛で出てくる。柄本明は、長男佑氏とそっくりの雰囲気があり楽しめる。

喫茶リバーバンクで撮ったシーンや、80年頃の京都の街角の風景が懐かしい。百万遍の近くの橘井寮が使われているのも嬉しい。(橘井寮の風景、こちらに載っている。)

また、鈴木清順手塚治虫原田芳雄の出演場面もおっと思うし、清順監督の役名が「けんかえれじい」南部麒六になっているところ、「けんかえれじい」のバンカラは寮でのやりとりにも受け継がれていて、そこも何かぐっときた。清順氏の役柄は同じ「オレンジロード急行」*1のアラカンさんの姿とも通じる。大森監督の柔らかくユーモアのある反骨みたいな表現好きだなあ。

大森監督のこちらの記事も楽しい。

 

雁の寺

 

雁の寺 [DVD]

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ずい分前にみたもので、主人公をいたぶる好色坊主を勝手に先代鴈治郎さんだとばかり思い込んでしまっていた。つい先日、ふや町映画タウンで話していて、あの坊主は三島雅夫氏だと驚きの事実を告げられ、確認のためみてみた。すると、言い訳がましくなるが、坊主は確かに三島氏だが、鴈治郎さんもなかなか女好きの役だった。序盤だけの出演だけど、この物語のひとつの原因を作っている存在。しかし、三島氏の役も好色坊主なんて書いたけど、今回見直して、以前みたときより、弱さの加減なんかもリアルでこういう人いるな、と、とても身近な存在としてとらえるようになっていた。若尾文子の生活上の切羽詰まり具合も前回よりしっかり理解できたし、若い主人公への行動なども、この人の精一杯だという感じに受けとれ、以前みたときのとてつもない話という印象からなにもかもが腑に落ちる話という風に自分の感想が変化している。

筋をわきまえた上での再見は、筋を追うことから解放されてアングルのかっこよさ、細かいネタのおもしろさなどを存分に味わえた。

主人公を演じる高見国一という俳優さんのなにかを内に秘めた目の光、柳良優弥のようなものを感じた。はなしのクライマックス、サスペンスもののような緊張感とこの主人公の頭の良さに笑いだしたくなる衝動にかられた。

また今回、三島氏の友人のカメラ小僧なモダン坊主がすごく気になった。あとで調べたら山茶花究氏。言われてみれば!山茶花氏、勝手に嫌みな番頭さんのイメージを持っていたもので、こういうスノッブぽいのもいけるのね、と楽しい発見。この僧侶の描写もだし、最後の幕切れも川島監督らしいものだった。

また八百文フルーツパーラーの包み紙や大市のすっぽんなどの言葉から漂う京都らしさも堪能した。お葬式のことを「そうれん」と呼ぶのも昔よくきいたなあ。